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北朝鮮では韓流ドラマやK-POPを視聴することは重罪に当たる。過去にはある女子大生が、韓流ドラマを見ていたというだけで拷問を受け、悲惨な運命を辿った。

(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…

一方で、米ビルボードの売り上げランキングで1位を記録するなど、K-POPを代表するアーティスト、防弾少年団(BTS)の勢いはとどまることを知らないが、北朝鮮の若者もその流れに決して乗り遅れてはいない。彼らの間で流行しているのはカバーダンス、つまり有名アーティストと同じように踊ることだ。

平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋によると、「チャンマダン(市場)世代と呼ばれる北朝鮮の若者の間では、BTSなどK-POPのPVや音楽番組が大人気だ。それも、もはや単に見て聞いて楽しむだけに飽き足らず、カバーダンス、リアクションビデオ、ランダムダンスパフォーマンスなど、自分たちでコンテンツを生産する段階まで来ている。

「このようなもの(K-POPカバーダンス)は何も特別なことではない。北朝鮮にも文化生活を楽しむという考えが芽生えたからだ」(情報筋)

BTSなどのK-POPアーティストがなぜここまで人気なのか。それは、韓流ドラマや映画のように「面白すぎて中毒性が高い」ということだけでは説明できない。

(参考記事:亡命した北朝鮮外交官、「ドラゴンボール」ファンの次男を待っていた「地獄」

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その名称に「10代、20代が社会的偏見や抑圧にさらされることを防ぎ、堂々と自分たちの音楽と価値を守り抜く」という意味が込められた防弾少年団は、アジア系のアーティストが避けがちな社会的、政治的メッセージを前面に押し出している。今年9月の国連総会では、「ラブ・マイセルフ」、つまり自分を愛することの大切さを訴えた。

「あなたが誰であっても、どこの出身でも、どのような肌の色やジェンダーであっても、自分のことを語ってください。そうして、自分の名前と声を見つけてください」(演説の一部)

BTSのこのような考え方が、国よりは自分のことを大切にする北朝鮮のチャンマダン世代の心を射止めたのだろう。しかしそれは、最高指導者を絶対的なものとして仰ぐ北朝鮮の体制とは相容れないものだ。

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当局が「BTSの思想的危険性」に気づいているかは不明だが、K-POPなど韓流への取り締まりは強化されている。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)では今年6月、韓流を見ていた女子大生など9人が逮捕されている。両江道(リャンガンド)でも7月に、韓流映画を見ていた中学生7人が逮捕されている。

(参考記事:北朝鮮、韓流ドラマを見た中学生を逮捕

咸鏡北道の会寧(フェリョン)では、友人の誕生日パーティでK-POPを歌ってダンスしていた若者が保安署(警察署)に連行され取り調べを受けていると、デイリーNKの現地の情報筋が伝えた。歌を聞きつけた隣人に密告されたようだ。

(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…

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しかし、北朝鮮におけるK-POPを取り巻く現状と未来は、情報筋のこの言葉に集約されていると言えよう。

「新しいものに敏感な若者の間では、(K-POPを)習おうとする熱意がさらに湧き上がっている。いくら取り締まりをしたところで、この流れは止められない」

一方、周知のとおり日本では、K-POPを代表するアーティスト、防弾少年団(BTS)のメンバーの一人が着ていた光復(日本の植民地からの解放)を祝うTシャツに原爆のキノコ雲の画像があしらわれていたことをきっかけに、大バッシングが起きている。

排外主義的な思想を持った一部のネットユーザーが、SNSやウェブ署名サイトなどでBTSのボイコットを煽り、大手メディアが便乗したことで広がった今回の騒動だが、「韓流ドラマに偏重した編成を行っている」として数千人がフジテレビ周辺でデモを行った、2011年の通称フジデモを彷彿とさせる様相を呈している。

これには、韓国や海外のBTSファンが強く反発している。当局の摘発や拷問も恐れずBTSを聞き、踊る北朝鮮の若者たちは「世界最強のBTSファン」と言えるかもしれないが、そんな彼らが日本の様相を見たら、どのような言葉を発するかが気になる。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記