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北朝鮮の医療の劣悪さは、つとに知られている。

北朝鮮と国交のある英国外務省は以前、「北朝鮮の医療施設と医師のリスト」という4ページの資料を公開し、自国民に注意を促したこともあった。北朝鮮の医療施設は劣悪で、衛生水準は基準以下だと指摘。病院には麻酔薬がない場合がしばしばあるため、北朝鮮での手術はできる限り避けることや、即時帰国するように勧告している。

(参考記事:【体験談】仮病の腹痛を麻酔なしで切開手術…北朝鮮の医療施設

覚せい剤も蔓延

実際、麻酔なしで手術を受けたことのある脱北者は、「メスを入れたお腹から伝わってくる痛みがどれだけひどいか。全身がぶるぶると震え、自分の血の匂いに吐き気がした」などと、その恐怖体験について語っている。

慢性的な経済難の中、北朝鮮が自力でこの現状を変えるのは至難の業だが、ようやく一筋の光明が見えてきた。

南北首脳会談での合意に従い対話を進めている北朝鮮と韓国は7日、保健医療分科会談を北朝鮮の開城(ケソン)にある南北共同連絡事務所で開催。感染症の流入や拡散を防止するため、年内に感染症の情報を交換する試験事業を開始することなどで合意したのだ。

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南北対話には、鉄道連結事業のように国連安全保障理事会の対北制裁決議に違反する可能性が指摘されているものや、軍事面の敵対行為中止のように今後の情勢に大きく左右される部分もある。

そんな中でも、この保健医療と山林保護だけは、是が非でも進展してもらいたい分野だ。特に、保健医療は北朝鮮国民の生命に直結するものであり、最も重視されるべきものと言える。

たとえば、北朝鮮は感染症の猛威に対してもきわめて脆弱だ。

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2015年7月に韓国・光州でユニバーシアードが行われた際には、現地でMERS(中東呼吸器症候群)に感染する恐れがあるとの理由で選手団の派遣を中止。2014年11月から翌年3月にかけてはエボラ出血熱の侵入を防ぐためとして、自国民と外国人とを問わず出入国を厳しく制限し、長期間隔離する「プチ鎖国」を実施した。

韓国在住のある脱北男性いわく、「北朝鮮は感染症が流行っても、国民に対して『手を洗え』『水は沸騰させて飲め』と指導するぐらいしか対策を取れない。ほかに出来ることと言ったら、国境を閉ざすことぐらい」なのだという。

保健医療分野の荒廃は、社会悪の蔓延にまでつながっている。現在、北朝鮮社会では違法薬物、中でも覚せい剤による汚染が深刻の度を増しているが、不足する医薬品の代用として庶民により誤用されてきたことが、その原因の一端となっているのだ。

(参考記事:一家全員、女子中学校までが…北朝鮮の薬物汚染「町内会の前にキメる主婦」

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また、金正恩党委員長は「避妊を禁止する」との無茶な指示を出しており、そのせいで多くの女性が婦人科疾患に苦しんでいるとも言われる。

(関連記事:「避妊するな」金正恩氏の命令に苦しむ北朝鮮の女性たち

これらの問題を少しでも改善するには、諸外国の協力により、北朝鮮でまともな医療が復活することを期すほかない。

世界が注視する北朝鮮の非核化が実現するかどうかはわからないが、せめて保健医療分野だけは、それと分離した形で国際協力が進むことを願う。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記