河原で500人死亡の地獄絵図…「速度戦」と呼ばれる殺人キャンペーン

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北朝鮮メディアは先月30日と今月1日、金正恩党委員長が両江道(リャンガンド)の三池淵(サムジヨン)郡と東海岸の「元山葛麻(ウォンサンカルマ)海岸観光地区」の建設現場を視察したことを伝えた。両方とも、金正恩氏がいま最も力を入れている開発プロジェクトであり、現地を視察するのはいずれも今年3回目だ。

しかし、金正恩氏の意気込みとはうらはらに、現地からは不安な声が聞こえてくる。

「資材が簡単に揃う状況ではないのに、工事の大幅なやり直しを命じられた。手抜き工事は避けられないだろう」(両江道のデイリーNK内部情報筋)

(参考記事:【再現ルポ】北朝鮮、橋崩壊で「500人死亡」現場の地獄絵図

北朝鮮では手抜き工事が横行しており、それにより、深刻な事故が繰り返し起きている。

だが、独裁者が直接指揮する建設プロジェクトでそんなことをしたら、命がいくつあっても足りないのではないか――と、このように考える向きは少なくないはずだ。ところが、それでも手抜き工事は行われるのである。しかも、それを誘発するのが独裁者の命令であるというのが、問題の深刻なところなのだ。

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金正恩氏は今回の三池淵郡の視察で、完成目標を数カ月から1年前倒しし、朝鮮労働党が創立75周年を迎える2020年10月までに終えるよう厳命した。前述したように、現地では工事の大幅なやり直しが行われているにもかかわらずである。

また、元山葛麻では「30階以上の旅館、ホテルをもっと追加配置することを予見すべき」「党及び関係機関の庁舎も、高層総合庁舎の形式で建設しろ」と命令した。

三池淵郡は、厳冬期には最低気温がマイナス30度以下になり、本来なら工事に適さない。しかし、工事のやり直しに工期の前倒しが重なり、冬場にも工事をせざるを得ない状況だという。

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また、機材不足や技術の未熟さにより、高層建築には時間がかかる。これまでに公開された元山葛麻の写真を見ると、最も高い建物で15階ほどだ。その2倍もの高さのビルをこれから設計するとなると、どれほど時間が必要なのか。ちなみに、金正恩氏が命じた元山葛麻の完成目標は、来年の10月である。

こうした無理難題に応えるために用いられるのが、「速度戦」と呼ばれるキャンペーンだ。

「速度戦」という言葉は1974年2月に登場した。金正恩氏の父・金正日総書記が、1976年までの経済6カ年計画を、党創立30周年(1975年10月10日)までに前倒しして終えようと呼びかけたのがきっかけだった。

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要は何が何でも工期を守るための突貫工事なのだが、目標設定があまりに無茶なために「やっつけ仕事」にならざるを得ないのだ。もちろん、安全対策もおざなりで、大量死亡事故が繰り返し起きている。1984年には建設途中の橋梁が崩壊し、500人の死体が河原に散乱する地獄絵図が繰り広げられた。

北朝鮮国民にとっては、まさに「殺人キャンペーン」も同様なのだ。

最近でこそ、金正恩氏は「安全対策」という言葉を口にするようにはなっているが、そもそも党や国家の記念日に合わせて工事を行うことにどれほどの意味があるのか。安全無視の建設プロジェクトのゴリ押しも立派な人権侵害であり、国際社会の非難を呼び込むということを、金正恩氏もいいかげんわかったらどうなのか。