触ると崩れるコンクリ壁…手抜きマンション「崩壊前夜」の恐怖

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北朝鮮の首都・平壌では2014年5月、完成したばかりの高層マンションが崩壊。500人が犠牲になる大惨事があった。北朝鮮当局は従来、こうした事故を徹底して隠ぺいするが、このときは犠牲者の多くが朝鮮労働党中央委員会の職員家族だったこともあって、やむをえず公表している。

(参考記事:「手足が散乱」の修羅場で金正恩氏が驚きの行動…北朝鮮「マンション崩壊」事故

こうしたこともあり、北朝鮮国民はマンションの安全性に非常に敏感だ。それなのに最近においても、重大な事故を予感させる建設案件が後を絶たない。

北朝鮮の金正恩党委員長が旗振り役となって進めている「革命の聖地」、三池淵(サムジヨン)の開発プロジェクト。近隣にある両江道(リャンガンド)の恵山(ヘサン)市でも、都市再開発が同時に進められている。

町並みがきれいになり、地元住民は喜んでいるかと思いきや、懸念の声があがっていると現地のデイリーNK内部情報筋が伝えてきた。

三池淵や恵山の建設現場のいたるところに掲げられているスローガン「万里馬式速度戦」。

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金正恩氏の祖父、金日成主席は1956年12月、一日に千里を駆けるという伝説上の馬の名を取った大増産運動「千里馬運動」を提唱した。朝鮮戦争で焼け野原となった国土を、千里馬の勢いで再建するという意味合いだ。

金正恩氏の父、金正日氏は1974年2月の朝鮮労働党中央委員会第5期8次全員会議で金正日氏が「走る千里馬のようにさらに拍車をかけ、新たな千里馬速度、新たな平壌速度で疾風のように駆け抜け、(1976年までの)6カ年計画を党創立30周年(1975年10月10日)までに終えよう」と呼びかけたことをきっかけに「速度戦」という言葉が登場した。それをさらにスピードアップさせたのが、金正恩氏の提唱した「万里馬式速度戦」というわけだ。

ところが、スピードアップばかりが強調され、質はないがしろにされてきた。それが冒頭で述べたマンション崩壊事故のように、とんでもない事故を巻き起こしてきた。

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三池淵同様に、当局が推し進める高級リゾート「元山葛麻(ウォンサン・カルマ)海岸観光地区」の建設現場では、多くの人命が失われているとの情報がある。

恵山でも2007年7月、速度戦と無理な構造の変更のせいで7階建てのマンションが崩壊し、数十人が亡くなった。また、2014年には恵山鉱山の労働者宿舎が同様の理由で崩壊する事故が起きている。市民は、当時目の当たりにした惨状を思い出し、不安に感じているということだ。それは幹部とて同じだ。

現地の労働党の幹部は、市内の渭淵洞(ウィヨンドン)で建設が進められている10階建てマンションの部屋に住む権利を得たが、台風と大雨の影響で資材が届いていない状態で工事が進められ、「速度だけは最先端レベル」「本当に鉄筋は入っているのか」と陰口を叩かれるようになったことで不安を感じ、権利を相次いで返上しているというのだ。

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「マンションの部屋をもらい受けることになった幹部は、毎日のように工事現場にやってくる。セメントでできた壁をすっと撫でるとボロボロと崩れ落ちる、塊で落ちるのもあると言っていた」(情報筋)

資材、装備、予算などがまともに確保されていない状態で工事を強行している上に、現場では資材の横流し、窃盗が頻発している。今年7月、当局は三池淵と恵山の現場で資材を盗んで売り払う現象が起きているとして、大々的な検閲(監査)を行い、関係者を処罰している。

しかし、それ以降も速度戦は続けられ、手抜き工事が常態化している状況に全く変化はない。当局は「速度と質を同時に追い求めよ」と指示しているが、長年の悪弊が改善される様子はない。

「遺訓政治」が国是となっている北朝鮮では、速度戦、計画経済、税金制度の廃止など金日成氏や金正日氏の提唱した政策をひっくり返すわけにはいかないのだ。