餓死寸前だった北朝鮮の少年はなぜ、村人たちに殴り殺されたのか

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先月18~20日、南北首脳会談に際し、文在寅大統領の特別随行員として訪朝した韓国の財界人は、首都・平壌の発展ぶりについて口々に驚きを語った。同様の感想は、最近訪朝した日本人旅行者や在日朝鮮人からも聞かれる。北朝鮮経済の市場経済化と相まって、金正恩党委員長が旗を振った平壌開発が形となっているのは確かな事実だ。

しかしそれは、北朝鮮全体の均一な発展を意味してはいない。食料事情はかつてと比べ改善しているが、貧富の格差拡大によって、毎日が食うや食わずの人々は大量に存在している。

最近、そのような境遇に置かれたある父子に悲劇が起きた。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋によると、事件が起きたのは先月中旬のこと。道内の穏城(オンソン)の村に住んでいた40代男性は、日雇いの仕事で糊口をしのいでいたが、しばらくの間仕事にあぶれ、丸一日何も食べられない状況に陥った。

そんなある日の夜のこと。男性と中学校3年生の息子は、村人が寝静まった真夜中に村外れにある電柱によじ登り、変圧器を盗もうとした。こうした電力設備は国有財産で、窃盗は重罪だ。父子はそれを知りながらもひもじさのあまり、変圧器に手を出そうとしたのだ。

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ところが、ちょうどそこに村人が通りかかった。大騒ぎして人民班長(町内会の会長)など他の村人を引き連れて現場に戻り、父子を電柱から引きずり降ろそうとした。激しく抵抗されたのだろうか、村人は父子に殴る蹴るの暴行を加えた。

送電設備が壊されたり盗まれたりすれば、復旧費用は村人の負担となる。日頃の貧しさにそのような負担が覆いかぶされば、死活問題だ。農村部の人々は現金収入を得るため、文字通り体を張っている。こうした様々な事情が重なり、暴力へと発展したのだ。

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村人は暗闇の中、引きずり降ろされた2人の顔をまじまじと見てようやく、同じ村に住む父子であることに気づいた。息子は、すでに虫の息だった。大急ぎで病院に搬送したものの、病院に着いたときには息を引き取った後だった。

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村人は容疑者の40代男性について、保安署長に善処を求めている。村の仕事を手伝うなど普段は誠実な人柄で、息子を失ってしまうとは、あまりに気の毒だという理由からだ。

このように犯罪者を地域住民がリンチして死に至らしめる現象は、北朝鮮特有のものではなく、警察機構が腐敗して頼りにならない国で広範に見られるものだ。その一方で、北朝鮮は体制を維持するための保衛部(秘密警察)の組織の維持に関しては注力している。

そんないびつな体制が、今回の悲劇を生んだと言っても過言ではないだろう。