トランプ米政権の内幕を描いた『恐怖(FEAR)』が11日、出版された。著者は、ウォーター・ゲート事件でニクソン大統領(当時)の関与を暴いた米紙ワシントン・ポストの著名記者ボブ・ウッドワード氏だ。
報道によれば、同書は米朝の緊張が高まっていた2017年10月、米空軍が北朝鮮と地形が似ている中西部ミズーリ州の高原で、金正恩党委員長を暗殺する訓練を極秘に実施していたと記述。有事に備える選択肢のひとつとして実施されたとしている。
非核化を巡る米朝対話が進展しているいま、朝鮮半島で戦争が勃発する可能性は昨年に比べはるかに低くなっている。しかし実際のところ、昨年までも米国が北朝鮮を先制攻撃する可能性は極めて低いと考えられていた。
もちろん、朝鮮半島有事のリスクはいまだに存在する。北朝鮮と韓国との間で戦争の危険が高まったのは、2015年8月だ。北朝鮮が非武装地帯に仕掛けた対人地雷に、2人の韓国軍兵士が接触。身体の一部を吹き飛ばされる事件が起きた。
(参考記事:【動画】吹き飛ぶ韓国軍兵士…北朝鮮の地雷が爆発する瞬間)デイリーNKジャパンの分析では、北朝鮮側に韓国軍兵士を傷つける意図はなかった。にもかかわらず事件は起き、事態がエスカレートしてしまったのだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面北朝鮮と米国の間では、戦争のリスクは存在しても、それは「より管理された」状態に置かれてきたと思う。オバマ前政権下においても、「影のCIA」と呼ばれる組織が対北先制攻撃を提言していた。
(参考記事:米軍の「先制攻撃」を予言!? 金正恩氏が恐れる「影のCIA」報告書)結局、それは米国の主要な戦略に組み込まれることはなかったようだ。空軍が秘密訓練を行っていたという類の話も、今のところは聞かない。
しかしトランプ政権は、少なくとも前政権よりも、対北先制攻撃に踏み込んでいたように見える。それも当然と言えば当然だ。金正恩氏は核弾頭を搭載した大陸間弾道ミサイル(ICBM)を手中にしつつあったのに、米国にできることと言えば、効果の定かでない経済制裁だけだったのだから。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面前述書によれば、金正恩氏に対する「暗殺計画」は「選択肢のひとつ」だったとされる。しかし、訓練を経て「選択肢」に磨きがかかり、情勢の緊迫度が増せば、それが使われる可能性は高まっただろう。タイミングと展開次第で、朝鮮半島で本当に戦争が起きるかもしれなかったのだ。実際にいま振り返ると、2017年10月というのは、非常に微妙な時期だった。その詳細については、次の機会に述べることにしたい。
(参考記事:「いま米軍が撃てば金正恩たちは全滅するのに」北朝鮮庶民のキツい本音)高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。