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北朝鮮当局が今年1月から続けてきた「非社会主義的現象」の取り締まりキャンペーン。範囲があまりにも広すぎることから、北朝鮮国民の生活に重大な影響を与え、激しい抗議の声が上がる事態に発展した。

金正恩党委員長は「人民を敵に回すな。大衆を党から引き離す行為は絶対に許さない」として、事実上取り締まりの中止を余儀なくされたと、デイリーNKは報じた。

(参考記事:金正恩氏「花柄ストッキング禁止令」を撤回か…重要政策で挫折

ところが、この命令が徹底されていないようで、地域によっては未だに非社会主義的現象の取り締まりが続いていると、咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

情報筋によると、すべての漁船は国の機関である水産事業所に登録し、水揚げの一定量を国に納めることになっている。しかし、どうやら未登録の漁船が多いとの情報を察知した当局は、道内の漁船に対する集中検閲(一斉査察)を行った。

その結果、とんでもない数の漁船が未登録状態にあることが判明した。ある地域の水産事業所の場合、登録漁船は30隻だが、未登録漁船がその10倍の300隻にのぼることが判明。道内全体で未登録漁船は2300隻に達した。未登録のものは、木製の小型漁船だ。

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あまりもの結果に驚愕した当局は、船主から未登録漁船をすべて没収し、水産事業所に強制的に登録させよと指示を下したという。

公式の税金制度のない北朝鮮では、国の機関が個人に「名義貸し」をする形で、事実上の税金を徴収することがある。個人は何らかの商売をするにあたり、国や地方の機関に登録する。機関の名義を借りて安全に商売できる見返りに、現金や商品を納めるという形だ。つまり、未登録は「脱税」にあたるのだ。

船主はなぜ登録しないのか。「脱税」という目的もあるが、登録すれば商売として成り立たないという点が大きな理由のようだ。

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「イカ、ハタハタのシーズンごとに、1隻あたり7トンの水揚げを国に納めなければならないが、木製の小型漁船の水揚げはその半分にも満たない。(当局は)未登録漁船は大儲けしていると考えているようだが、そんなに儲けがあるわけない」(ある船主)

当局は、登録した漁船に水揚げノルマを課すにあたって、現場の事情などお構いなしに、書類の上の数字だけを見て決める。そのため到底、達成不可能なノルマが課されてしまう。それを避けるために、登録しないのだ。

現場の事情を無視したノルマの連発は、北朝鮮の構造的な問題の一つと言えよう。

(参考記事:北朝鮮、計画経済と「虚偽報告」が引き起こす食糧難

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水揚げだけではなく船まで奪われてしまった船主の間では、当局への恨みの声が上がっていると、情報筋は伝えた。「死を覚悟して漁に出るしかない」とため息を付く船主もいるという。

日本海沿岸に北朝鮮から来たと思われる漁船が漂着する事態が相次いでいるが、その背景にはこのような無理な操業をせざるを得ない状況があると言われている。

(【写真】石川県に漂着した北朝鮮の木造船

一方で、漁に出るのを断念し「海を見つめながら地団駄を踏んでいる」(情報筋)船主もいるという。多額の予算を注ぎ込んで船を買ったというのに、結局その資金すら回収できず、後悔の日々を送っているというのだ。

このような現状に対して情報筋は「食糧配給があるわけでもなく、漁に出ることが唯一の仕事なのに、今回の取り締まりで地域の漁業は崩壊したも同然だ」と嘆いている。

北朝鮮北東部の漁村には、イカやハタハタの季節になると全国から仕事を求めて多くの人が集まってくる。船に乗る人もいれば、市場や水産加工場で働く人もいて、大賑わいとなるものだった。当局の無能ぶりが、そんな地域経済をダメにしてしまったのだ。

(参考記事:北朝鮮でイカ漁が最盛期…「イカラッシュ」で漁村はてんやわんやの大騒ぎ