金正恩氏が待望「血と涙の電車」がいよいよ完成か

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北朝鮮の金正恩党委員長が注力してきたプロジェクトのひとつ、「白頭山(ペクトゥサン)観光鉄道」が先月16日、試運転にこぎつけたと現地のデイリーNK情報筋が伝えてきた。

三池淵(サムジヨン)線としても知られるこの鉄道は、朝鮮の霊山であり、金王朝の聖地でもある「白頭山」に人々を運んできた。全長は80km余りで、全線が電化されている。

同路線は、両江道(リャンガンド)の恵山(ヘサン)と鯉明水(リミョンス)を結ぶ森林鉄道として日本の植民地統治時代に開通し、解放後の1948年に一般鉄道に転換。その後は国民の「巡礼」の足となっていたが、1994年の大洪水で路盤が流失した。

その後、復旧工事の再開と中断が繰り返されてきたが、金正恩氏の主導によって、ようやく完成に近づいたわけだ。母親が日本の大阪出身であることから、「白頭の血統」としての正統性に疑いを持たれてきた金正恩氏は、権威確立のため何としてもこの鉄道を復旧させたかったのだろう。

現地の北朝鮮国民もまた、鉄道が完成間近となったことを喜んでいる。しかしその理由は、金正恩氏のためでもなければ、聖地巡礼のためでもない。地域住民は、建設労働者への金品の支援を強いられたり、自らが現場に動員され命の危険にさらされたりと、この工事で散々な目にあってきた。そこから解放されたことを、心の底から喜んでいるのだ。

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北朝鮮の大規模プロジェクトに、国民の「生き血」を吸わずに完成したものはわずかしかないだろう。

品質や安全を無視してスピードだけを重要視する北朝鮮の「速度戦」のせいで、建設現場では死亡事故が多発している。

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この鉄道建設も例外ではない。情報筋からの話を総合した結果、少なくとも26人が命を落としている。また、建設に携わった労働者以外でも、発破事故で周囲の民家が崩壊し、命を落とした一般住民もいるとのことだ。

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当局は死者に対して補償をするどころか、きちんと葬ることすらしていない。この路線が「人民の血と汗で作った涙の鉄道」と呼ばれる所以だ。

この地域で開発が進められているのは、鉄道だけではない。おそらくこの鉄道を利用して、金正恩氏の「偉大性」を高めるための聖地の整備がいっそう進むと思われる。そこでもまた、かけがえのない人命が失われることになるのだろうか。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記