ポンペオ米国務長官は13日に放映されたFOXテレビのインタビューで、北朝鮮が完全な非核化に応じた場合、見返りとなる経済支援の主体は「起業家や資本家ら民間資本だ。米国の納税者ではない」との考えを明らかにした。北朝鮮の電力などのインフラ整備や農業支援を進める方針という。
米国は人権侵害を巡っても北朝鮮に制裁を加えている。非核化が実現しようとも、北朝鮮の人権状況が改善しなければ、政府による支援は困難なのかもしれない。
いずれにしても、経済支援という対価なくして、北朝鮮が非核化に応じることはない。とくに金正恩党委員長にとってインフラ整備のためのカネと技術は、のどから手が出るほど欲しいに違いない。
金正恩氏は4月27日に行われた文在寅大統領との首脳会談で「平昌(冬季五輪)を訪問した(北朝鮮の)人々が韓国の鉄道は素晴らしいと言っていた。北朝鮮は交通が良くないので、このような環境にいて北朝鮮に来たら本当に不便に感じるかもしれない。ゆったりとお迎えできるようにしたい」と語った。 金正恩氏が、全世界の前で認めざるを得ないほど、北朝鮮の交通インフラは劣悪なのだ。
とくに鉄道は惨憺たるありさまで、東京―岡山間に相当する距離を行くのに、ひどければ10日もかかってしまう。
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劣悪な鉄道事情を生む原因となったのは、故金日成主席による「我が国は電力が豊富なので必ず電気鉄道を敷設しなければなりません」という教示だ。
世界最大級と言われた水豊ダムを擁し、石炭などの燃料も豊富だったので、鉄道を電化することは経済発展を目指す上で合理的と考えられたのだ。その結果、鉄道電化率は8割に達した。ところが北朝鮮は、1990年代以降の発電設備の老朽化、そして深刻な経済難により、極度の電力不足に陥る。そして高い電化率がアダになり、鉄道はマヒ状態に陥ってしまった。
また、運行管理もきわめてずさんで、鉄橋から谷底へ墜落したり、貨物列車と旅客列車が正面衝突したりといった大事故が頻発している。
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そのため、今や国内での長距離移動は民間のタクシーやバス、トラックが主役となっている。しかし、非核化後に大規模な投資が始まり、各地で発電所や港湾などの整備が始まれば、これらの輸送手段だけで重くてかさばる資材を迅速に運ぶのは難しい。
ということは、鉄道の改修は優先的に行われることになりそうだが、傷み方は相当にひどく、簡単には進まない可能性が高い。
仮に米朝関係が改善したとしても、北朝鮮が本格的な経済発展の入り口に立つまでには、それなりの時間を要すると思われる。
(参考記事:1500人死傷に8千棟が吹き飛ぶ…北朝鮮「謎の大爆発」事故)高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。