北朝鮮では「牛肉を食べたら銃殺」だった

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朝鮮半島で「牛」は食用ではなく、農耕に使うものとされ大事にされてきた。農業の機械化が進んだ韓国では、牛が畑を耕す光景はノスタルジーを感じさせるものとして受け止められるが、北朝鮮では今現在の光景だ。

協同農場では農耕用に複数の牛を飼っているが、これは大切な国有財産であり、売買も屠殺も禁止されていた。許可なく屠殺すると処刑されかねないほどの重罪だ。

脱北者のチ・チョロ氏は2014年2月、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)にこのように語っている。

「北朝鮮にいた頃、会寧(フェリョン)の市場の公園で処刑があるというので行きました。腹をすかせた人が農場で草を食んでいた牛を殺して食べてしまったという罪で銃殺されるというものでした」

「北朝鮮では牛の命は人間の命と同じに扱われます。牛を食べることは人間を食べることと同じです」

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また、脱北者のチェ・ギテさんは韓国の週刊東亜の取材に、1999年8月に会寧で17頭の牛を屠殺した罪で6人が銃殺される光景を目撃したと証言した。

(参考記事:謎に包まれた北朝鮮「公開処刑」の実態…元執行人が証言「死刑囚は鬼の形相で息絶えた」

食糧不足で国中が混乱に陥っていた90年代後半の「苦難の行軍」の時期、ちょっとした窃盗でも銃殺刑に処せられる人が続出した。「牛を食べたから処刑」というのは、このような状況で起きたものと思われる。

そんな「命がけのグルメ」を楽しめるのは一部の特権階級、外国人だけという状態が続いてきたが、デイリーNKは2015年6月、牛の売買が解禁されたと報じた。また、RFAも2016年7月に平壌市民の話として、荷物を運べなくなり屠殺された牛が、中国から輸入された牛肉の半額で売られていると伝えた。

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最近では、牛肉が多く流通するようになった。デイリーNKの内部情報筋によると、缶詰にして売られていることが多い。450グラム入りで1万3000北朝鮮ウォン(約170円)。コメが2.7キロ買える値段だ。

牛肉以外にも豚肉、ホッケ、イワシ、サバ、松の実粥、黒米、フルーツの缶詰などが売られるようになったが、「一般的な北朝鮮の人にとってフルーツの缶詰はまだ手に届かない」(情報筋)ため、平壌や元山(ウォンサン)など外国人の多い地域などを除いては、牛肉、豚肉、松の実粥がよく売られている。

いずれも誕生日、ピクニック、子どもの遠足など特別な日に食べるちょっとしたごちそうで、松の実粥は粉ミルクや離乳食に入れて赤ん坊に与えるという。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記