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北朝鮮国営の朝鮮中央通信は、金正恩党委員長の夫人である李雪主(リ・ソルチュ)氏が14日、朝鮮労働党と政府の幹部らとともに、訪朝した中国芸術団の公演を鑑賞したと伝えた。

李雪主氏が金正恩氏に同行するのではなく単独で、党・政府の幹部らとともに重要イベントに参加し、それを北朝鮮メディアが報道するのは異例のことだ。また、その報道では李雪主氏の呼称が「尊敬する李雪主女史」となっていた。

北朝鮮メディアは、2月8日に行われた建軍節の軍事パレードの報道を機に、李雪主氏の呼称を「同志」から「女史」に変更していたが、名前の前に「尊敬する」と表現を付けたのは、これが初めてだ。今後、ファーストレディーである李雪主氏の権威を高める作業が、本格的に進められるのかもしれない。

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一方、金正恩氏の妹である金与正(キム・ヨジョン)党第1副部長は13日、中国共産党の宋濤対外連絡部長が率いてきた芸術団一行を空港で出迎えた後、わざわざ一行の宿舎に出向き、労をねぎらった。この動きも北朝鮮メディアによって報道されており、中国との関係改善を強くアピールした形となった。

金与正氏は2月、兄の特使として韓国を訪問。また李雪主氏は先月、金正恩氏の初の外遊となった中国訪問に同行した。ごく最近、北朝鮮外交の前面に躍り出てきたこの若い女性2人は、まさに車の両輪のごとく、金正恩氏の「微笑み外交」を支えているように見える。

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ちなみに、脱北者で平壌中枢の人事情報に精通する李潤傑(イ・ユンゴル)北朝鮮戦略情報センター代表は、金与正氏と李雪主氏の関係について次のように語る。

「2人はほとんど同い年で、仲が良いと聞いています。数カ月年長の金与正氏が『姉貴分』として、李雪主氏をリードしているようです」

たしかに、平凡な家庭から嫁入りした李雪主氏には、ロイヤルファミリーの中に、気楽に話し合える「味方」が必要だったろう。そのような存在がいなければ、韓国大統領の特使団を前に、金正恩氏のことを「うちの人」などと呼ぶことはできなかったのではないか。

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2人が同時に「微笑み外交」の前面に出てきたのも、金正恩氏やその側近たちから息の合ったところを買われ、ある種の連係プレーを期待されてのことかもしれない。

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しかし今後、金与正氏と李雪主氏のどちらの役割がより重要なものとなってくるかと言えば、それはやはり、「白頭の血統」を引く金与正氏だろう。

前出の李代表によれば、金正日総書記の死後、北朝鮮の政務と人事を一手に握る党組織指導部長は、金正日氏の妹である金慶喜(キム・ギョンヒ)氏、次女であり正恩氏の異母姉である金雪松(キム・ソルソン)氏が歴任してきたという。

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ならば金与正氏も、これから時間をかけて経験を積み、叔母や姉に匹敵する重要ポストを任される可能性もあると考えられる。

ただ一点、気になることもある。朝鮮労働党機関紙・労働新聞のウェブサイトが李雪主氏の公演鑑賞のニュースを、一般の報道記事より重要度の高い「革命活動報道」の欄に掲載したのだ。同欄には通常、金正恩氏の動静に関する記事だけが掲載される。今後、北朝鮮がファーストレディーの地位をどこまで高めるつもりなのか、動向が注目される。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

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