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北朝鮮の金正恩党委員長が、ヘビースモーカーであることはよく知られている。李雪主(リ・ソルチュ)夫人からも禁煙を勧められているようだが、やっぱりやめられないようだ。北朝鮮の最高指導者として抱えざるをえないストレスに加え、彼自身の「意志の弱さ」ゆえでもあるのだろう。

トイレにストレス

朝日新聞によると、先月5日に韓国特使団が訪朝し金正恩氏と会食した際、韓国側の鄭義溶(チョン・ウィヨン)大統領府国家安保室長が、正恩氏に「たばこは体に悪いので、おやめになったらどうですか」と勧めたという。

韓国特使団との会食の場では吸っていなかったようだが、金正恩氏がタバコを指にはさんでいる姿を撮った写真は、北朝鮮メディアが何度も報じている。それも、火気厳禁の化学工場や教育現場など、常識的に考えて吸ってはならない場所であろうと所構わずタバコを手にしている。

儒教的な観点からすれば非難の的になりかねないにも関わらず、金正恩氏が祖父ぐらいの年齢差がある老幹部の前でも平気でタバコを吸う。それは「最高指導者たる者は誰の前でもどこの場所でもタバコを吸える」とアピールするため、さらには独裁者ゆえに抱える特有のストレスを解消させるためでもあるだろう。金正恩氏は北朝鮮国内にいる限り、やりたい放題の独裁者だ。それでも、普通の人と同じトイレを使用できない事情などもあり、多大なストレスを抱えている。

(参考記事:金正恩氏が一般人と同じトイレを使えない訳

金正恩氏は先月25日から初の外遊として中国を訪問。習近平国家主席と初の首脳会談を行ったが、移動はもちろん専用トイレ付きの特別列車だった。さらに、トイレの「代用品」が載せられていると噂されている専用ベンツまで持ち込んだと見られる。

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そんな金正恩氏にも禁煙の意志はあるようだ。昨年5月には胸に禁煙補助用のパッチ、つまり「ニコチンパッチ」を胸に貼った写真が確認されている。つまりは禁煙の努力はしてみたけど、やっぱりダメだった、ということだ。

(参考記事:金正恩氏が「胸チラ」で禁煙をアピールする理由

鄭室長はこうした事情を踏まえて、金正恩氏に禁煙を勧めてみたのだろう。その裏には単なる親切心や気遣いだけでなく、意外な助言に対して金正恩氏がどのような反応を示すのかという、人格分析の狙いがあったのかもしれない。本人だけでなく、周囲の反応も含めてだ。

朝日新聞によると、同席していた金英哲(キム・ヨンチョル)朝鮮労働党副委員長は鄭氏の助言に凍り付いたという。それもそうだろう。金正恩氏がこれまで意にそぐわない人物や、ミスを犯した人間を無慈悲に処刑してきたことは金英哲氏もよく知っている。

(参考記事:【動画】金正恩氏、スッポン工場で「処刑前」の現地指導

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金英哲氏は、北朝鮮国内ではありえない鄭氏の助言に対して焦ると同時に、どう対応していいのかわからなかったのだろう。一方、同席していた李雪主夫人は機転の利いた対応をしたようだ。

李雪主夫人は「いつもたばこをやめて欲しいと頼んでいるが、言うことを聞いてくれない」と手をたたきながら喜び、その場を和ませたという。金正恩氏に対して鄭氏のように助言できるのは実妹である金与正(キム・ヨジョン)氏、または李雪主夫人ぐらいだろう。ファーストレディーとしての面目躍如といったところか。

金正恩氏の喫煙問題そのものは些細なエピソードに過ぎない。しかしこうした事実からも、金正恩氏のパーソナリティや精神状態、周囲との関係などをうかがい知ることが出来るわけだ。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記