金正恩が手を染めた「人道に対する罪」(4)

人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

北朝鮮にはかつて、銀河水(ウナス)管弦楽団という音楽グループがあった。金正恩党委員長の妻・李雪主(リ・ソルチュ)氏がかつて所属していた楽団だ。金正日総書記によって2009年に創設された同楽団は、精力的に公演活動を行っていたが、2013年に突如として解散させられる。

そして同年8月、日本と韓国のメディアは、ポチョンボ電子楽団の元人気歌手でありモランボン楽団の団長である玄松月(ヒョン・ソンウォル)氏が処刑されたと報じた。これは誤報だったが、銀河水管弦楽団などの有名芸術団メンバーが公開処刑されたのは事実とされている。

脱北者で韓国紙・東亜日報の名物記者でもあるチュ・ソンハ氏が昨年8月31日、自身のブログで興味深い記事を公開した。

ソルチュ氏が正恩氏のパートナーとして選ばれた際、彼女が所属していた銀河水(ウナス)管弦楽団の同僚や友人ら数人が、ソルチュ氏に「元カレ」がいたことを示す「証拠写真」を回し見した。これが、北朝鮮当局の知る所となり、公開処刑にまで発展したというのだ。

(参考記事:金正恩氏「美貌の妻」の「元カレ写真」で殺された北朝鮮の芸術家たち

ただ、この銃殺事件を巡っては、これとは大きく異なるストーリーが伝えられてもいる。芸術団メンバーらが処刑された主な理由は、自分たちどうしでポルノを撮影していたことがバレたからだというものだ。

人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

こちらの説も、なかなか詳細な話が出てきており、まったくの作り話だとも思えない。

(参考記事:美貌の女性らが主導…北朝鮮芸術家「ポルノ撮影」事件の真相

いずれにしても、ポルノを撮ろうが彼氏と写真を撮ろうが、そんなことは、人間が殺される理由になどなり得ない。

しかも、芸術団メンバーらはきわめて残忍な方法で殺され、当局はその様子を、射撃場に集めた芸術関係者数千人に見せつけた。前列で見ることを強要された女性歌手らの中に、失禁しなかった者はいなかったという。

人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

金正恩氏の父である故金正日総書記もまた、自らの乱れた女性関係を隠すため手を血に染めている。北朝鮮の独裁者たちは、このような蛮行を当たり前のように働いてきたのだ。

たしかに、南北首脳会談や米朝首脳会談が成功し、朝鮮半島の非核化が進むのは望むべきところだが、それは決して、北朝鮮の人々の人権問題を置き去りにする形で実現してはならない。

(参考記事:金正日の女性関係、数知れぬ犠牲者たち

やはりどう考えても、金王朝に人間社会を治める資格などないのだ。

(参考記事:機関銃でズタズタに…金正日氏に「口封じ」で殺された美人女優の悲劇

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記