金正恩が手を染めた「人道に対する罪」(2)

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北朝鮮の金正恩党委員長とトランプ米大統領による米朝首脳会談の行方が注目されているが、仮にこれがうまく行き、北朝鮮が非核化に取り組むことになっても、それだけで正恩氏が国際社会から大歓迎されるようになるわけではない。

国連は昨年まで13年連続で、北朝鮮による人権侵害を非難し、解決を求める決議案を採択している。その過程で、金正恩氏が「人道に対する罪」に問われる可能性も言及された。

「人道に対する罪」について、辞書は次のように説明している。「戦前または戦時中一切の一般人民に対して為された殺戮,殲滅,奴隷的虐使,追放その他の非人道的行為,または政治的,人種的もしくは宗教的理由に基づく迫害行為」(コトバンク)。

このような罪を問われるのは、たとえばどのような人物だろうか。連想される名前はアドルフ・ヒトラー、ヨシフ・スターリン、ポル・ポトあたりだろうか。記憶に新しいところではスロボダン・ミロシェビッチ。いずれの人物も、「残酷な独裁者」と名高い。

北朝鮮では、権力による国民に対する虐殺が繰り返し行われてきた。実際のところ、そのほとんどは金正恩氏の祖父(金日成主席)と父親(金正日総書記)によって行われたものだ。

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金正恩氏が父親から独裁権力を受け継いだ時は、彼はまだこのような犯罪に手を染めていなかったはずだから、この悪しき歴史を終わらせる絶好のチャンスだったと言える。

しかし、今となってはもはや手遅れだ。きわめて残忍な方法で行われる公開処刑は、金正恩体制になってからも続いており、中にはその現場が、衛星画像で確認された例もある。

米国のNGO、北朝鮮人権委員会(HRNK)のグレッグ・スカラチュー事務総長と商業衛星写真分析を行うASA(AllSource Analysis)のジョセップ・バミューデス博士によると、2014年10月7日、平壌郊外にある姜健(カン・ゴン)総合軍官学校で普段と違う様子が観察された。

(参考記事:「家族もろとも銃殺」「機関銃で粉々に」…残忍さを増す北朝鮮の粛清現場を衛星画像が確認

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衛星画像では、広場に何らかの物体10個が一列に並べられている様子が観察された。それに向かって6門のZPU-4対空機銃(北朝鮮で言う高射銃)が並べられていて、その後ろには、射撃の様子を観察するためと見られる場所が設けられている。

(参考記事:玄永哲氏の銃殺で使用の「高射銃」、人体が跡形もなく吹き飛び…

アジアプレスは同年10月、北朝鮮の内部情報に基づき10人の朝鮮労働党幹部が同軍官学校で処刑されたと報じており、HRNKの分析と時期的に符合するのだ。

姜健総合軍官学校は幹部の処刑に頻繁に使われており、金正恩氏の夫人である李雪主氏が所属していた銀河水管弦楽団の元メンバーの処刑にも使われたとされる。

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北朝鮮で行われている「人道に対する罪」は、もはや噂や単なる情報の域を脱し、具体的な容疑となってきているのだ。北朝鮮の非核化を優先するため、国際社会が目を逸らすには、あまりに生々しい現実として存在しているのである。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記