金正恩氏を「がっかり」させた北朝鮮兵士を待ちかまえる悲惨な運命

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北朝鮮の朝鮮人民軍の兵士が、軍幹部を暴行するという事件が発生した。一見すると些細な出来事のようにも思われるが、これが金正恩党委員長が介入するほどの大事件に発展してしまった。

平壌のデイリーNK内部情報筋によると、事件が起きたのは先月30日午後10時ごろのことだ。平壌に向かう道沿いに設置されている10号哨所(検問所)に1台の軍用車両が通りかかった。

哨所で検問を行っていた護衛司令部(金正恩氏の警護部隊)所属のパク上級兵士(兵長に相当)は、この車両を運転していたチョン超期上士(兵役終了後も軍勤務を続ける下士官)を殴りつけ、間に割って入ったリム少佐の階級章を剥ぎ取るなどの大立ち回りを演じた。

10号哨所では2人1組での勤務が義務付けられているが、パク上級兵士は規則に違反して一人で、それも泥酔状態で勤務を行っていた。そして、検問所にやって来たこの車のドライバーがワイロを払おうとしないことに腹を立て、暴行に及んだものと思われる。

北朝鮮では社会のあらゆる場面でワイロのやり取りが行われており、軍などの内部においても、職権を振りかざしてのワイロや性上納の強要がまかり通っている。

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「護衛司令部は(金正恩氏)直属部隊であるため、傍若無人に振る舞うことが多かった。いつものように何かイチャモンをつけてワイロをむしり取ろうとしたが、拒否されたため暴行に及んだようだ」(情報筋)

北朝鮮の道や市、郡の境界線には、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)護衛司令部や首都警備司令部、または国家保衛省(秘密警察)が管轄する10号哨所、人民保安省(警察)が管轄する哨所など様々な検問所が存在する。

そこを通るには旅行証が必要だが、平壌市に入る場合にはさらに面倒な手続きが必要だ。平壌市人民委員会(市役所)の2部(移動関連部署)から承認番号を受け取り、それを居住地の人民委員会の2部に提出して旅行証や出張証明書などを受け取り、10号哨所に提示してようやく平壌入りが認められる。

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そんな面倒を避けるために欠かせないのがワイロというわけだ。「ソビ車」と呼ばれる個人経営のバス、トラックは各地の哨所にワイロを定期的に払っており、比較的自由に通行できることがメリットだ。治安維持と住民統制が目的のはずの北朝鮮の検問所は、事実上の料金所と化してしまっているのだ。

本来、軍関係の車両なら問題なく通過できるはずだが、パク上級兵士は酔っ払っていたせいか、相手が何者であるか気づかなかったようだ。上官に対する暴行だけでもかなりの犯罪だが、さらに問題になったのは、この車両が「国家緊急文書」を運んでいたことにあった。中身は明らかになっていないが、金正恩氏宛ての秘密報告書だった可能性もある。

翌日になってこの事件の報告を受けた金正恩氏は、革命武力の伝統を著しく毀損した事件であるとして、軍事刑法で厳重に処罰せよという方針を下した。同時に、護衛司令部のみならず国境警備隊司令部に対しても「鉄のように硬い規律と軍機を確立することについての執行計画書を提出せよ」と指示を下した。

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情報筋は、この事件が金正恩氏にとってかなりショッキングな出来事だったようだとして、次のように説明した。

「いろいろ悩んだ末に、成分(身分)の優秀な者を選び抜いて作った護衛司令部なのに、そのメンバーが不正行為のみならず、上官を無慈悲に殴りつけたことに衝撃を受けたのだろう。これを機に護衛司令部の将兵に対する大々的かつ徹底的な思想検討が行われる可能性が高い」(情報筋)

暴行を働いたパク上級兵士に対しては「公開銃殺もありえる」(情報筋)と言われているが、いかなる処分を受けたか今のところ不明だ。

(参考記事:金正恩氏の「高級ベンツ」を追い越した北朝鮮軍人の悲惨な末路

この問題の根本原因は、北朝鮮の給与体系が現実に即していないことにある。給料だけでは生きていけないため、取り締まりの権限を振りかざし、ワイロをせしめることで生活費を稼ぐしかないのだ。このような現象は、北朝鮮のあらゆる領域に蔓延している。

女性を「労働党に入れてやる」などと言ったと甘い言葉で誘い出し、「性上納」をさせる行為も、このような体質が生んだものだ。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記