トランプ米大統領は2日、ホワイトハウスのオーバルオフィス(執務室)に脱北者6人を招き、北朝鮮の人権状況や脱北の実態について意見交換した。トランプ氏は1月30日の一般教書演説でも、金正恩体制による人権侵害を非難している。
トランプ氏はホワイトハウスでの面談時に、特に北朝鮮女性の人身売買被害に言及したという。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)によれば、脱北者たちから北朝鮮の人権状況の説明を受けたトランプ氏は、「北朝鮮の残酷な人権状況についてよく理解している」と前置きし、「特に韓国に定着した脱北女性の大部分が人身売買の被害者だというが、この21世紀に考えられないことだ」として、中国政府に人身売買の根絶を強力に要求すると述べたという。
トランプ氏がこの言葉を本気で述べたのなら、これほど喜ばしいことはない。また、トランプ氏がさらに踏み込んで中国政府に脱北者の強制送還を止めさせることができれば、朝鮮半島情勢には中長期的に大きな変化が起きるはずだ。
(参考記事:北朝鮮、脱北者拘禁施設の過酷な実態…「女性収監者は裸で調査」「性暴行」「強制堕胎」も)国連などはこれまで、中国に対して脱北者の強制送還をやめるよう説得を続けてきた。中国は北朝鮮との間で結んだ犯罪人引渡に関する条約を強制送還の根拠としている。しかし中国は「難民の地位に関する条約」と「拷問禁止条約」に加入しており、それらの条約は、国内法に優先して難民の強制送還禁止を順守すべきことを定めているのだ。
だが、中国は頑として脱北者を難民として認めようとしない。昨年11月には、4歳の男児を含む脱北者10人が強制送還されたばかりだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面また、脱北者の悲劇は強制送還される前の段階でも起きている。中国政府から何ら人権面での保護を受けられないために、中国において、脱北者は容易に犯罪の餌食になってしまうのである。
(参考記事:17歳で中国人男性に売られ…脱北女性「まだまだ幼い被害者が大勢いる」)とくに脱北女性らは人身売買の被害に遭いやすく、売られた先で「アダルトビデオチャット」などのセックスワークを強要されている。
(参考記事:中国で「アダルトビデオチャット」を強いられる脱北女性たち)こうした問題の根が、北朝鮮の体制にあるのは言うまでもない。しかし、北朝鮮に変化を促し、人権侵害を止めさせるには途方もない時間と労力を要する。それよりは、中国に脱北者の強制送還を止めさせる方がよほど簡単だ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面昨年来、国際社会でそうした問題意識が強まって来たのは歓迎すべきことだ。ただ残念ながら、日本ではあまり関心が持たれていない。日本の安全保障のためには北朝鮮に核兵器を放棄させることが必要であり、そのためには北朝鮮の民主化が必要だ。そしてその第一歩は、脱北者の人権を守ることから始まる。そのことを、より多くの日本人が理解してくれることを願っている。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。