ここ数日、「北朝鮮の金正恩党委員長の秘密資金が枯渇してしまったのではないか」とするニュースが注目されている。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が24日に伝えた情報を、大手メディアが引用して伝えているものだ。

RFAの情報源は、北朝鮮で秘密資金の管理を担当している党39号室の要員らと接点を持つ中国人の消息筋だ。たしかに貴重なソースと言えるし、この間の金正恩氏の使いっぷりを見ると、そろそろ財政危機に見舞われてもおかしくはないと思える。

ちなみに、金正恩氏が資金を費やしてきたのは、核開発やミサイル実験だけではない。スキー場建設などのハコモノ行政にも相当なカネをかけているし、ぜいたく品にも散財している。たとえば昨年には、「喜び組」のために多額の金を費やして「セクシーアンダーウェア」を輸入していると、英紙デイリー・メールが報じたこともある。

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ただ、北朝鮮の財政システムは複雑で、その全容はいまだ誰にも把握できていないと思われる。特に秘密資金については、詳細な情報はほとんどない。なので、中国からの伝聞情報だけを頼りに、「秘密資金の枯渇」を云々するのはいささか早計な気もする。

それよりは、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが29日付で報じた、「北朝鮮軍が冬季訓練を縮小している」とする情報の方が、金正恩氏にとっての深刻な状況を知らせているように思える。

北朝鮮にとって最も怖いのは、米韓軍が毎年春に行う合同演習「フォールイーグル」だ。演習ではあるが、ここには米本土からも多数の部隊が集まり、数十万の兵力が参加する。

北朝鮮としては、演習のふりをして攻め込まれてはたまらないので、相応の備えをしなければならない。そのため例年、12月に中隊(約150人)規模の冬季訓練を開始し、1月にはこれを1,000人前後の大隊規模に拡大。2月に近づくと10,000人余りの師団規模となり、3月には30,000~50,000人の軍団規模になる。このように軍の動員規模を大きくしながら、いつでも戦える態勢を整えるのである。

つまり、冬季訓練が縮小されるということは、米韓軍への備えがおろそかになるということなのだ。縮小が事実なら、経済制裁や財政難による北朝鮮軍の弱体化は、相当なところまで来ているということだ。

その裏にはもちろん、核武装したことによる自信もあるだろう。ただ、北朝鮮は自分が軍事的に弱い時に、対話攻勢に出る傾向がある。2015年8月、北朝鮮側の地雷に韓国軍兵士が接触し、軍事危機が高まったときもそうだった。

(参考記事:【動画】吹き飛ぶ韓国軍兵士…北朝鮮の地雷が爆発する瞬間

当時も北朝鮮は韓国との対話姿勢を示したが、それはおそらく「いま戦っても韓国には勝てない」との判断からだったと思われる。つまり当時の対話姿勢は、核武装を強化するための時間稼ぎに過ぎなかったのだ。

このように見るにつけ、平昌冬季五輪をきっかけにした南北対話の裏で北朝鮮が何を考えているのか、非常に気になるところだ。

(参考記事:金正恩氏の新年の辞「平昌に参加も」表明はワナである

高英起(コウ・ヨンギ)

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1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記