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北朝鮮では最近、ヤミ金がらみのトラブルが急増している。国際社会の制裁強化による経済状況の悪化に加え、「カネの貸し借りは年をまたがない」という慣習が影響しているもようだ。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋によると、市場では最近になって、ヤミ金業者とカネを借りた人が口論する光景が頻繁に見られるようになった。また、借りた額が多いのに返済の見込みがない場合、暴力的な取り立てを行うこともよくあるとして、中朝国境沿いの茂山(ムサン)に住むある人物の事例を紹介した。

この人物は、今年夏に清津(チョンジン)に住む親戚の紹介でヤミ金業者を訪れ、現金と小麦粉を借りた。借りた額と量について情報筋は明らかにしていないが、現金1万元(約17万3000円)と小麦粉100キロを返済するという約束だった。

この人物が現金と小麦粉を借りたのは、茂山鉱山で産出される鉄鉱石の密輸の種銭とするためだった。しかし、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)系列の貿易会社ですら、鉄鉱石の輸出ができず青息吐息だというのに、個人レベルの密輸がうまくいくわけがなく、たちまち返済が滞ってしまった。

するとヤミ金業者は、自宅に押しかけ、テレビなどの家財道具や家畜を奪ったばかりか、暴力までふるったという。さらには、紹介した親戚の家にも押しかけ、一切合財を奪っていった。

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さらに、この情報筋が各地をめぐる行商人から聞いたところでは、農村のみならず都会でもヤミ金がらみのトラブルが多く発生しているという。とくに都会では、ヤクザを動員して暴力的な取り立てを行うので、農村より恐ろしいとのことだ。

(参考記事:【実録 北朝鮮ヤクザの世界(上)】28歳で頂点に立った伝説の男

そもそも、北朝鮮の刑法はカネを貸して利子を取る行為を禁じている。

第113条(高利貸罪) 高利貸行為を常習的に行った者は1年以下の労働鍛錬刑に処す。前項の罪状の重い場合は3年以下の労働教化刑に処す。

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北朝鮮の社会安全省(現人民保安省、警察庁にあたる)は1997年8月、穀物を貸して利子を取った者は、場合によっては銃殺にするとの布告を出している。また、2009年の貨幣改革(デノミ)にあたって、「個人の負債は法的に無効化される」という徳政令を出している。

これは、市場経済化を嫌い、経済の主導権を国の手に取り戻そうとしていた故金正日総書記の時代に行われたことだが、ヤミ金業はなくなるどころか、むしろ拡大を続け、北朝鮮の経済はもはや、ヤミ金なしでは回らなくなっている。その根本的な原因は、旧態依然とした国のシステムにある。

たとえば日本で会社勤めをしている人が、副業でスモールビジネスを立ち上げるには、給与所得や金融機関からの融資を創業資金として使うだろう。ところが北朝鮮では、国営の工場、企業所、機関に勤めていても、小遣い程度の給料しかもらえない。

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また、銀行は国営の工場・企業所や、当局の許可を得て一定以上の規模で貿易業などを営んでいるトンジュ(金主、新興富裕層)でなければ、融資を行わない。

生きていくためには商売をしなければならないのに、その元手を得るにはヤミ金を利用せざるをえないのだ。しかし、そもそもが違法行為であるため高利になりがちで、トラブルが絶えないのだ。

(参考記事:穀物1キロで売られる娘たち…金正恩式「恐怖政治」の農村破壊

今年の夏、両江道で、50代の女性が自殺した。ヤミ金業者から30キロのトウモロコシを借り、秋の収穫後に倍にして返す約束をしていたが、返済に行き詰まってしまったのだ。業者は執拗に返済を求めた。期限から1ヶ月過ぎても返済の見通しが立たなかった。女性は返済できないことを苦にして9月末、自ら命を絶った。2ヶ月後に子どもの結婚式を控えてのことだった。

平安南道(ピョンアンナムド)南浦(ナムポ)に住む在北朝鮮華僑のリュさんは、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)の取材に対し、1万ドルを借りた場合、毎月500ドルの利子をヤミ金業者に払わなければならないと答えた。これは年利で60%に達するが、北朝鮮では当たり前のことだとリュさんは語った。

また農村では、現金ではなく穀物の貸し借りに、年利200%の利子が付くとの話もある。返せなければ、やはりキツイ取り立てが行われ、農家の女性たちが売春に従事せざるを得なくなるケースも増えているもようだ。

(参考記事:コンドーム着用はゼロ…「売春」と「薬物」で破滅する北朝鮮の女性たち

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記