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北朝鮮の核実験場がある咸鏡北道(ハムギョンブクト)の吉州(キルチュ)郡で、核実験の影響で住宅や学校が倒壊するなどし、数十人の死傷者が出ていたことが23日までに分かった。韓国の朝鮮日報が伝えた。

脱北者らが参加する北朝鮮研究団体、サンド研究所が同紙に説明したところでは、北朝鮮が6回目の核実験を実施した9月3日、実験場がある豊渓里(プンゲリ)から8キロ離れたシンドン里が強い揺れに襲われ、住宅数十棟が倒壊。さらには学校の校舎も半分が崩壊し、数十人に人命被害が発生したという。

しかも、北朝鮮当局は被害の復旧よりも農作業を優先しており、現場はほとんど放置されているとのことだ。

核実験による揺れの影響を巡っては、デイリーNKも9月上旬の時点で、多数の建物被害が出ていることを把握していた。

(参考記事:「庶民のことも考えろ!」核実験に北朝鮮国民の不満も爆発

もともと地震の少ない国でもあり、とくに田舎の建物は構造が脆弱である。せめて、実験直前に住民に対し警告を発していれば、被害は出なくて済んだのかも知れない。そう考えると、これは人災を通り越して国家による殺人とも言える出来事だ。

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北朝鮮では、この種の人災が後を絶たない。

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2016年8月末に北朝鮮北東部を襲った台風10号(ライオンロック)による水害では、西頭水(ソドゥス)発電所に流す水を貯めている2つの貯水池の水門が予告もなく開かれた。発電設備の崩壊を避けるためで、そのせいで60あまりの村が跡形もなく消え去り、国境警備隊の哨所(監視塔)、兵舎、軍官(将校)用の住宅もあらかた押し流されてしまったのだ。

(参考記事:「あんた達のせいで皆死んだ」住民見殺しで金正恩体制の権威失墜

また2012年には、首都・平壌で金正恩党委員長の「指導者デビュー」を祝う“どんちゃん騒ぎ”を数カ月にわたり続けるため、穀倉地帯である黄海南道(ファンヘナムド)の食糧を、当局が根こそぎ徴発してしまった。そのため現地の食糧が「瞬間蒸発」してしまい、青丹(チョンダン)郡を中心に、万単位の餓死者が発生。飢えた人々が家族の亡骸に手を伸ばす「人肉事件」の悲劇すら伝えられた。

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つまり、金正恩政権が発足してからこれまでの間に、正恩氏の失政によってすでに数万人規模の犠牲者が生まれているということだ。北朝鮮の体制が残忍であるのは良く知られていることだが、どうやったらここまで国民を殺すことができるのか。正恩氏にはやはり、「無能」の烙印を押さなければなるまい。

このような失政が繰り返される中、北朝鮮国民の間で金正恩政権への不満が高まっているであろうことは想像に難くない。それが噴出しないのは、恐怖政治により抑え込まれているからだ。

国際社会が、何らかの方法で北朝鮮国民が意思表示できる機会を提供できるならば、北朝鮮に変化を促し、核・ミサイル問題でも重要な変化に導ける可能性があるものと筆者は考える。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記