金正日の趣味は射撃や狩猟、乗馬である。狩猟はたいてい、初雪が降る頃に始めると、金正日の専用狩猟場区域に住んでいる人たちは話している。
金正日の個人別荘が数えきれないほど多いというのはよく知られているが、個人の専用狩猟場が所々にあるという事実はあまり知られていない。金正日を警護するため、一般の住民に知られてはいけないからだ。狩猟をして射撃の実力を試すことも、金正日にとってははずすことができない日課だ。
金正日個人の狩猟場があちらこちらに散在しているという事実は、護衛局出身の脱北者と狩猟場を目撃した脱北者によっても明らかにされている。
護衛局出身のホ・チョルス(55歳, 仮名)さんの証言によれば、平安南道アンジュ市にある別荘の近くの、平安北道パクチョン郡ヨンファ里と、寧辺郡オボン里の狩猟場が代表的な場所だそうだ。ホさんは「いつから個人の狩猟場になったのか正確には分からないが、この地域に住んでいた出身成分の悪い人たちが他の所に移された70年代からのようだ」と話した。
それ以外にも、ウンゴク地区には「ウンゴク牧場」がある。ホさんは「『ウンゴク牧場』は肉牛の牧場と言われているが、実際は中央党のクムス山経理部が直接管理しているきじとノロ鹿の牧場」と説明した。平安南道のスンチョン市とムンドク郡、スクチョン郡、ケチョン市、アンジュ市と接している広大なウンゴク地区は、2002年12月20日に金正日が公開現地視察をした。
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パクチョン郡ヨンファ里と寧辺郡オボン里の住民たちは、多くが護衛局に勤めた除隊軍人か、核心党員だ。金正日が来れば「1号行事」(金正日のための行事)を行うことができる忠誠心が強い人たちが集まっている。
狩猟区域には「護衛局の農場」という名前がついている。住民がする仕事は農業と道路の整理、そして動物の管理だ。冬が来ると道路の雪をきれいに掃いて、動物が冬を越せるように周辺にトウモロコシの茎で作った家を建ててやり、真冬には雪の上に穀物の粒を撒いてやる。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面協同農場だが分配はなく、党から直接配給を受ける。収穫した穀物は動物のえさになる。立冬が過ぎて原野からえさがなくなる時期になると、ノロ鹿やきじたちが家の近くにやってくる。そのため、犬にえさを与えるように、桶にえさを入れてやる。えさを食べるノロ鹿やきじを見て、通りがかった住民たちは「ここは別世界だなあ」と思う。
人になついた動物は、近くに行っても逃げださない。きじが台所に飛び込んでくることもある。他の所に住んでいた動物がえさを求めて、群れをなしてやって来ることもある。
狩猟場を守る管理員たちは、金正日が突然訪れることもあるため、護衛(警護)事業課の動物管理に格別の注意を向ける。だが年に1、2度来る程度で、1度も来ないこともある。他の地域にも狩猟区域があるからだ。
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狩猟をする時間はたいてい、夜の11時~1時の間だ。静まった道路に自動車のエンジン音が聞こえてくるという。住民たちは「将軍様が狩りにいらっしゃった」と言って外を眺めるそうだ。原野の真ん中が昼間のように明るくなり銃声が響くと、明りの間をがたいが大きな随行員が猟犬の後を追って、獲物を捕まえにいく。
狩猟は1ヶ所で30分ほど行われ、いくつかの場所を移動するそうだ。明りに驚いたきじやノロ鹿が逃げ回り、そこに向けて引き金さえ引けば10匹以上のきじが落ちてくるという。
狩りには日本製の「SAFARI」が3~4台動員される。畝も小川も走ることができるこの車は、軍団長級の司令官だけに戦時作戦指揮のためといって特別に供給されるが、一般の住民は見物することもできない。
ノロ鹿を1匹食べて追放された住民
狩りが始まる前に、警護員たちがこの地域を巡回する。「SAFARI」が狩猟区域にやってくると、「今日の夜は将軍様がいらっしゃるようだ」と住民たちは推測する。
狩猟区域は警備をする軍人たちが毎日巡察する。警護員と近隣の保安員(警察)が自動小銃AKに実弾を装填して、狩猟区域の鷹や鷲、山犬、いのししなど、獲物を害する動物を狩る。狩猟区域にきじやノロ鹿が集まると、こうした動物も増えるため、保安員や警護員は3~4人ずつ組になって狩りをする。こうした動物は軍用犬のえさにしたり、託児所や幼稚園に送ることになっているが、ほとんどは自分たちで処理する。
町にやってきたきじやノロ鹿に向かって、住民たちは石を投げたり棒を振り回してはいけない。たまたま、足が折れたノロ鹿や死んだきじを拾っても、党委員会に報告しなければならない。こっそりと食べたら思想的に問題になるからだ。ホさんは「93年の寒さが厳しい冬に、ノロ鹿が家の窓の唐闔??Sて破ってしまったので、住民が鎌を投げてノロ鹿を殺し、ゆでて食べたことがあった。その人は追放された」と証言した。
ここの住民は犬を飼うことができない。きじを殺すことができる農薬も使ってはならないと言われながら、動物の保護と増殖に日々努めているのである。