ウクライナでロシア軍によって連れ去られた未成年者の一部が、北朝鮮の江原道元山市にある「松涛園国際少年団キャンプ」(旧・松涛園中央少年団キャンプ場)に送られ、思想教育を受けている可能性が浮上した。松涛園は1960年開園、社会主義圏の少年組織の交流拠点として、半世紀以上にわたり共産圏の青少年らに社会主義教育を施してきた施設として知られる。
問題の証言が示されたのは、今月3日に米ワシントンで開かれた上院公聴会である。ウクライナの人権団体「地域人権センター」の法務専門家カテリナ・ラシェウスカ氏が、「ロシアに拉致された子どもたちのうち、少なくとも2人が北朝鮮の松涛園キャンプに送られた」という調査結果を報告した。
書面で公開されている証言のうち、該当箇所の日本語訳は次のとおりだ。
地域人権センターは、ウクライナの子どもたちが軍事化されロシア化されている「再教育キャンプ」165か所を記録しました。これらのキャンプは占領地、ロシア、ベラルーシ、そして北朝鮮に存在します。12歳のミーシャ(Misha)〔占領ドネツク州出身〕と16歳のリザ(Liza)〔占領シンフェロポリ出身〕は、北朝鮮のSongdowon(ソンドウォン)キャンプへ送られました。そこは故郷から9,000km離れています。キャンプでは子どもたちは『日本の軍国主義者を破壊せよ』と教えられ、1968年に米海軍艦船プエブロ号(Pueblo)を攻撃した朝鮮の退役軍人と会ったと報告されています。
また、これに関する詳細な情報を提供できるとしているが、証言の中では開示されていない。
そこで気になるのが、北朝鮮メディアが7月に公開した記事と写真だ。国営の朝鮮中央通信は7月23日、「朝ロ両国人民の関心の中で朝ロ少年親善キャンプが始まった。松涛園国際少年団野営所(江原道)で行われる親善キャンプには、わが国とロシアの児童・生徒キャンプ団が参加した」と報道したのを皮切りに、同キャンプに関する計3本の記事を公開。それに添えて34枚の写真を公開しており、そこには少なくとも数十人の、ロシアからきたと思しき少年少女らが写っている。
ウクライナの地域人権センターは、この中に、ウクライナから連れ去られた「ミーシャ」と「リザ」と思しき顔を見つけたのかもしれない。
ロシアは、占領地域から連れ去った未成年者について「保護」や「避難」を主張しているが、ウクライナ側は国際法に違反する「強制移送」であり、国家的な「ロシア化(Russification)」政策の一環だと糾弾。戦時下で孤立した子どもたちを自国文化から切り離し、ロシア語教育や軍事訓練を施すことで、将来の兵士や政権忠誠層、さらには海外でロシアの利益を代弁する人材へと育成する狙いがあるとみている。
(参考記事:「感謝する理由ない」北朝鮮の児童が金正恩称賛に反発…教師も両親も驚愕)
松涛園国際少年団キャンプ場は、北朝鮮が友好国の青少年を招き、「社会主義的価値観」を共有してきた象徴的施設だ。ロシアは北朝鮮との軍事協力を強化するなかで、同キャンプ場を利用した「反西側」思想教育を外注している構図が浮かぶ。今回の証言は、拉致されたウクライナ児童を対象に、北朝鮮が思想教育の受け皿として組み込まれている疑惑を初めて具体的に示したものとなる。
もっとも、当の北朝鮮においても、児童に対する思想教育は必ずしもうまく行っているわけではないのだが……。
