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生物兵器は、1925年のジュネーブ議定書で使用が禁止され、1975年に発効した生物兵器禁止条約で開発、生産、貯蔵が禁止されている。条約には今現在、187の締約国があり、北朝鮮もその一つだ。

一方で、北朝鮮を巡っては、生物兵器の保有疑惑が指摘され続けている。

米国務省が今年4月に出した年次報告書「軍備管理・不拡散・軍縮協定の遵守」は、北朝鮮が軍事目的で攻撃的生物兵器プログラムを保有しており、これは条約の1条、2条に定められた義務に違反すると指摘している。

保有疑惑との関連性は不明だが、北朝鮮当局は国民に対して、こんな宣伝を繰り広げている。

「韓国から飛来したビラにはウイルスがついている!」

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だが、国民には全く効果がないようで、そんな宣伝を笑い飛ばしているという。平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

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道内の价川(ケチョン)市内の工場、企業所、人民班(町内会)に今月10日、朝鮮労働党の組織から政治事業資料が配布され、それに合わせて政治講演会が開かれた。テーマは「敵地物」――つまりは韓国から飛来するビラ、SDカード、米ドル紙幣などについてだ。

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講演はこのような内容で始まった。

「日々、力を増すわが国(北朝鮮)の政治、軍事的威力に脅威を感じた敵どもは、わが最高指導部(金正恩総書記)の権威を毀損すべく、卑劣な政治扇動汚物の散布に狂憤している」

政治扇動汚物とは韓国在住の脱北者やその支援者が飛ばしているビラのことだが、講演者はこのように主張した。

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「敵地物は伝染病の塊」
「敵どもはわが国の内部に病原菌をばらまき、わが社会主義を崩壊させようと発狂している」

ウイルスを紙に付着させたとしても、生存時間はせいぜい数時間から24時間程度だ。2001年に米国でおきた炭疽菌テロは、封筒に炭疽菌と粉を入れる手口だったが、結果的に感染者は出なかった。この効率の悪さが、実際の戦争などで生物兵器がほとんど使われない一因となっている。

もし脱北者団体が、ビラに何らかのウイルスを塗りつけたと仮定しても、それを拾った人に感染させることは非常に困難だろう。そもそもウイルスの培養は、研究者でもないシロウトにはきわめて難しい。

講演者は聴衆にこのように訴えた。

「敵地物散布策動を叩き潰すための闘争に皆が立ち上がらなければならない」
「奇妙な飛行物体を発見したら、絶対に接触せずに地域の安全部(警察署)や保衛機関(秘密警察)に適時に通報することを義務化しなければならない」
「敵地物を発見したら、一人で処理せずに必ずグループになって通報、処理せよ」

さらに、このようなことも述べた。

「出所不明の商品を密売されている現象を見かけたら、即時通報せよ」

これは、ビラがくくりつけられている風船を広い、リサイクルする人がいることを念頭においた発言だろう。

(参考記事:金与正の恫喝も無視する北朝鮮国民の「生活の知恵」

実際、北朝鮮の人々は、韓国から飛来したものを先を争って拾いに行くようだ。

「本当にウイルスが付着していると信じている人はここ(北朝鮮)にはいない。むしろ誰かに見つけられる前に、誰も見ていないうちに拾えればラッキーだと考える」(情報筋)

風船には米ドル紙幣、食品、USBメモリなど有用なものが入っており、食糧難に苦しめられている北朝鮮の人々にとっては「天の恵み」のようなものだ。

(参考記事:「見てはいけない」ボロボロにされた女子大生に北朝鮮国民も衝撃

不必要なものは燃やして、風船の中に入っているものだけを取り出して使う人もいる。中に入っていたコメやスナック菓子を食べて、その味が忘れられないと語る人もいるとのことだ。そんな話が広がり、むしろ飛来物に対する好奇心が高まる逆効果を生んでいる。

講演会の前に配られた政治事業資料には、コメやチョコパイなど具体的に何が入っているかは記載されていないが、これが余計に好奇心を煽ってしまったようだ。

(参考記事:金与正の「汚物」がさらけ出してしまった北朝鮮の窮状

逆に北朝鮮が韓国に飛ばした風船からは、様々な汚物に加えて寄生虫が発見された。意図的なものか、偶然紛れ込んだのかは不明だ。