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練炭が主な燃料として使われている北朝鮮では、冬季の一酸化炭素中毒事故が後を絶たない。

平安北道(ピョンアンブクト)のデイリーNK内部情報筋は、2月上旬のある1日だけで、人口29万の新義州(シニジュ)市内で10人もの人が一酸化炭素中毒で病院に搬送されたと伝えている。また、今季に入って新市街地の南新義州だけで20人が中毒死しているとも伝えている。

悲劇を防ぐために、各人民班(町内会)は見回り活動を強化している。具体的には夜中に町内の家々を訪ねてノックして返事があるかを見る。もし返事がなければ、一酸化炭素中毒で倒れているおそれがあると見て、玄関ドアを蹴破ってでも室内に入り、住民の状態を確認し、家人が倒れていた場合は速やかに病院に搬送するなどの救命措置を行う。

そこまでやっていても、すべての死を防ぐことは不可能だ。ところが、ある「クスリ」が一酸化炭素中毒に効果があるとして人気を博している。咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

(参考記事:「焦げ臭い匂い取り締まり班」の活動を妨害する知人の犯罪

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2月中旬のある日のことだった。道内の慶源(キョンウォン)郡在住の老夫婦が、朝になって一酸化炭素中毒になって倒れているのが発見され、急遽病院に搬送された。

ところが、病院には同様に一酸化炭素中毒で担ぎ込まれた患者が複数いた。治療するには、高圧酸素治療装置の中に入り、血液中の酸素を増やすのが一般的だが、北朝鮮の郡部の病院に、このような装置は珍しく、あっても一つだけだ。

老夫婦は優先的に装置に入れてもらうことができた。お年寄りだから優先されたわけではない。夫婦の子どもや親戚が、朝鮮労働党や安全部(警察署)の幹部だったからだ。

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病院に到着した順番ではなく、バックに誰がいるかで治療のプライオリティが上げてもらえるのはよくあることで、先に病院に到着したのにコネもカネもないため治療を後回しにされ、亡くなってしまう人もいる。

このときも、他の患者の家族の間から「幹部の家族だけが人間扱いされ、われわれのような力のない庶民は人間ではないからずっと待てということか」などと怨嗟の声が上がったという。

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しかし、電圧の低下で装置がうまく働かず、老夫婦は意識不明の重体のままだった。

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焦る家族に医師は、とあるアドバイスをした。それに基づいて家族は使いの者を中国との国境に面した会寧(フェリョン)へ走らせ、現地在住の華僑から「クスリ」を3グラム購入させた。それを投与したところ、老夫婦は意識を取り戻し、簡単な治療を受けただけで帰宅することができた。

医師のアドバイスとはこのようなものだった。

「一酸化炭素中毒で意識を失った場合、ピンドゥを少し吸わせれば、意識を取り戻す可能性が高い」

ピンドゥは漢字で書くと「氷毒」、つまり覚せい剤のことだ。主要成分であるメタンフェタミンは、意識を回復させたり、睡眠薬や麻酔薬の中毒を改善したりする効果があると言われる。しかし、このようなメリットよりも、幻覚や依存性などのデメリットが上回るため、他の国で使われることはほとんどない。日本でも製造が続けられているが、患者に処方されることは非常にまれだ。

ただ、慢性的な医薬品不足が続く北朝鮮では、覚せい剤やアヘンなどが医薬品の代用品として使われることがしばしばある。当局は禁止薬物として取り締まりの対象としているが、老夫婦と仲の良い慶源郡検察所の幹部は、こんなことを告げたという。

「覚せい剤3グラム程度では、法的にさほど問題にならないので心配するな」

(参考記事:薬の代用品「アヘン」がもたらした平凡な北朝鮮一家の崩壊

取り締まりにもかかわらず覚せい剤が広く流通しており、3グラムでは少量扱いされているのだ。密売目的でない上に、家族に党や機関の幹部がいることから、たとえ問題視されても、充分にもみ消せるというのだろう。

カネとコネがものを言う北朝鮮らしいエピソードだ。

(参考記事:数百円で量刑を3分の1にできる北朝鮮の司法制度

この話は道内にあっという間に広がり、最大都市の清津(チョンジン)では、一酸化炭素中毒に備えて、覚せい剤を常備薬にするブームが起きている。中でも、カネもチカラも併せ持つ人々は、覚せい剤を1グラムでも確保しておこうと、先を争って買いに走っている。

一酸化炭素中毒を防ぐには、オンドル(床暖房)に使う練炭により温められた空気が、床下から室内に漏れないように床の隙間を完全に埋めて遮断する必要がある。だが、手抜き建築が横行しているため、中毒事故が後を絶たない。また、高圧酸素装置のさらなる普及をしようにも、1台で500万円前後する。全国の200市、郡のすべての病院に設置するにはかなりの予算が必要だ。