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築古の家に住むに当たって生じる問題は様々あるが、その一つが電気だ。例えば、電気を食うモノが電灯やラジオくらいしかなかった戦前に建てられた家屋の場合、家電やデジタルデバイスだらけの現代の生活に合わず、より多くの電気が使えるように電気設備の大幅な更新が必要となる。国全体がそんな状況と言っても過言ではないのが、北朝鮮だ。

日本の植民地支配下にあった時代に完成し、東洋一の規模を誇った水豊(スプン)ダムを擁し、電力供給に余裕のあった建国間もない北朝鮮は、その後、鉄道の電化を進めた。しかし、水力発電は元々、降水量の少ない朝鮮半島北部の気候に合っておらず、電気使用量の増加に伴い、不足が生じるようになった。

それを補うために各地に水力発電所を建設したのだが、気候が変わるわけもなく、深刻な電力難の出口は全く見えない。国民は、自宅にソーラーパネルを設置したりして、電力を「自力更生」しているのが現状だ。

(参考記事:【北朝鮮国民インタビュー】「国が電気を供給してくれていた時代に未練はない」

比較的電力事情が良好とされていた首都・平壌でも、国際社会の制裁、コロナ鎖国によって電力事情が悪化している。当局はその解決に乗り出し、先月から24時間の供給にこぎつけたのだが、その裏でシワ寄せを受けている人々もいると、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

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北朝鮮北部、中国との国境に面した慈江道(チャガンド)の中江(チュンガン)郡の情報筋は、地元では電気が全く来ない状況が続いていると伝えた。同郡には軍需工場が集中しており、水力発電も盛んだ。1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」のころにも、電気は多少なりとも供給されていた。

電気の供給が中断されるきっかけとなったのは、2018年に完成した中小型発電所だ。当局は苦難の行軍のころ、電力難解消のために、「水の流れるところすべてに中小型水力発電所を建設せよ」との指示を下し、4000もの水力発電所を作らせたが、全く役に立たなかった。

金正恩党書記は「すべての家庭で電気炊飯器など家電製品が使えるようにすることについて」という方針を下した。中江郡の朝鮮労働党委員会は、地元住民を動員し、セメントを背負わせ、沢にダムを建設したのだが、1〜2年ほど稼働する「フリ」だけさせて、後は機能しなくなってしまったという。党委員会は、中江邑(郡の中心地)の電力消費は、この発電所だけで賄えると虚偽の報告を上げた。

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「ともかく実績を上げようとするイルクン(幹部)たちの虚偽報告も悪いが、お上(金正恩氏)が庶民の実情をあまりにも知らず、恩着せがましく振る舞うことがさらに深刻な問題を生んでいる」(情報筋)

(関連記事:北朝鮮の川沿いに立ち並ぶ「使えない水力発電所群」

現地では、こんな笑えない冗談のような事件も起きている。

中江郡青年鉱山で働く女性労働者が、夜中に職場から風呂敷に包んだ何かを持ち出すのを、パトロール中だった鉱山の支配人に見つかった。風呂敷包みを開けさせたところ、出てきたのは電気炊飯器だった。彼女はこう弁明したという。

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「家に電気が来なくてご飯が炊けないので、電気炊飯器を職場に持ち込んでトウモロコシ飯を炊いて、家に帰る途中だった」

中小型発電所は稼働していなくとも、他の水力発電所では発電が続けられているはず。その電気はどこへ消えたのか。情報筋の説明によると、農村動員期間なので地方の民家への電力供給を大幅に減らし、その分を首都・平壌に回して24時間使えるようにしているのだという。

さらに、地元の幹部やトンジュ(金主、新興富裕層)は、電力供給所や工場、企業所の幹部にワイロを渡して、工業用の電気を使っている。そのため、庶民の家に供給する分はほとんど残らないのが現状だ。

同じ慈江道の満浦(マンポ)市の幹部は、水資源が比較的豊富で大中小の様々な水力発電所がある現地では、かつて電力の自給自足が可能だった。しかし2014年に平壌のタワマン団地の黎明(リョミョン)通りの建設が始まり、電力需要が急増すると、電気を他の地域に取られるようになり、むしろ他より電力事情が悪くなったと述べた。

特に2015年に、内閣の電力工業省が、全国の電力状況を管理するシステムを構築してから、逆に慈江道の電力事情が悪くなったと証言した。

「各道に割り当てられた電力消費(量)が少しでも超過すると、電力供給を自動的に遮断するシステムなので、いくら電力を生産しても、中央にすべて奪われて暗闇の中で暮らすしかない」(幹部)

さらに、現在繰り広げられている「平壌市1万世帯住宅」建設に24時間電気を供給しなければならないと、電気の収奪はひどくなる一方だ。平壌市民はネオンサインが光り輝く通りを闊歩している一方で、地方の住民は飯炊きすらできず困っていると、現地の事情を嘆いた。