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昨日、CNNなど米国の主要メディアが金正恩党委員長の重体説を報じたことで、北朝鮮ウォッチャーや関係機関はどこも大騒ぎになった。実態はどうなのか。(高英起)

筆者はと言えば、わがデイリーNKジャパンの「本家」である韓国デイリーNKが前日、金正恩氏は12日に心血管疾患の手術を受けたが経過は良好だとするスクープを出していたこともあり、「明日当たり、もしかしたら」という心の準備は少しだけできていた。

というのも、最近のデイリーNKは金正恩氏の地方視察の動向や、新型コロナウイルス対策での北朝鮮の休校措置などについて事前に言い当てるなど、「平壌情報」の精度を上げてきていたからだ。

3通のメッセージ

では、本当のところ金正恩氏はどのような状態にあるのか。結論から言うと、筆者は彼の健康になんらかの問題が生じたが、事態は金正恩氏とその周辺によってコントロールされていると考えている。金正恩氏はそのうち、「復活」した姿を世の中に示すだろう。そして、たとえそうであるにせよ、彼の「後継者」である妹・金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党第1副部長の動向には、いっそうの注意が必要だと思っている。

理由はいくつかある。

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韓国の大手メディア関係者から伝え聞いたところ、青瓦台(大統領府)は重体説に否定的な見解を出しているが、メディアから情報を当てられた担当者は「(金正恩氏の)スケジュールとメッセージが継続して出ている」と答えたとされる。つまり、金正恩氏がいまも公務の日程をこなし、また公務にかかわるメッセージを発信しているから深刻な状態にはないはずだ、という意味だ。

金正恩氏がどのようなスケジュールをこなしているのか、詳細はわからない。しかし病床にいても、安定した状態であれば、重要案件の決済やメッセージの発信はできる。実際、北朝鮮国営の朝鮮中央通信は、金正恩氏が17日付でシリア大統領に、18日付でジンバブエ大統領に、そして20日付でキューバの国家主席に祝電を報じた。いずれも、金正恩氏が祖父の生誕記念日に錦繍山(クムスサン)太陽宮殿を参拝しなかったことで注目を集めた、4月15日より後である。

トランプの意図

仮に、金正恩氏が重篤な状態にあるならば、これらの祝電は「偽装」ということになる。だが、これまで日本人拉致や核開発と関連して散々、嘘やデタラメを言ってきた北朝鮮も、その責任が最高指導者に及ばないようにすることには必死になる。まして、上記のような祝電は急ぐものでもない。筆者は、これらの祝電が金正恩氏の決済の下に発信されたと見ている。

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嘘とデタラメを言ってきた北朝鮮だが、その責任が最高指導者に及ばないよう体裁を取り繕うことには必死になる。

ちなみに、トランプ米大統領は18日の記者会見で、金正恩氏から「素晴らしい書簡」を最近受け取ったと述べたが、北朝鮮外務省がこれを即座に否定する一幕があった。これは、米国が金正恩氏の「異変」を察知した上で、反応をうかがうために上げた観測気球だったのか。はたまた、トランプ氏は単に過去の書簡を持ち出しただけで、北朝鮮が「そういう状況じゃない」ということを几帳面に示唆したのだろうか。

女性兵士の惨状

それにしても、米国からは詳しい続報が出て来ない。CNNの第一報は、金正恩氏が手術後に危険な状態にあるとの情報を米国政府が注視している、というニュアンスだ。その「情報」はどこから出たのか。もしかしたらデイリーNKの報道をCNNが拾い、それを米当局者に宛てたところ、情報を否定せず「注視している」とコメントしたのではないか。つまりはメディアのキャッチボールで情報が独り歩きするパターンだ。

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ただ実は、今年1月にフランスの医師団が北朝鮮を訪問したとの情報が、韓国の北朝鮮ウォッチャーから少し前に聞こえていた。医療における金一族とフランスのつながりは深い。たとえば2008年に金正日総書記が脳卒中で倒れた際にも、フランスの医師団が平壌を訪れている。

一方、デイリーNKの報道では、金正恩氏の心血管疾患の手術を行ったのは国内の医療陣だという。どうして、フランスの医師団ではないのか。それは恐らく、新型コロナウイルスだろう。北朝鮮は新型コロナウイルスの侵入を防ぐためとして、1月から外国人の入国を禁じている。また、ウイルスが欧州で猛威を振るっている現状を考えれば、先方の事情も北朝鮮行きを許さなかったのかもしれない。

この辺の情報はウラの取れたものではないのだが、ストーリーに乱れのない仮説が成立するのである。

もちろん、仮説は仮説だ。いますぐピンピンした金正恩氏が公開の場に現れたら、轟音を立てて崩壊する。

それでも金正恩氏の健康異変説を唱える気になるのは、やはり彼の妹・金与正氏がものすごいスピードで存在感を増しているのが最大の理由だ。

デイリーNKによると、金与正氏は昨年12月17日、本人名義で「女性軍人の勤務生活と健康に特別に配慮し、その状況を了解(把握)すること」との指示を各部隊政治部に通達したという。金与正氏が軍に直接、自分の名前で号令をかけるのはこれが初めてと見られる。

北朝鮮軍の女性兵士らは、飢えや性的虐待など、過酷な環境に置かれていることが知られている。金与正氏はそれに対して配慮を示すことで、軍における足場作りを開始した可能性がある。

(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為

だが、いかに金正恩氏の妹といえども、当時の金与正氏の肩書は党宣伝扇動部第1副部長だ。ここは思想教育や体制宣伝を担当する部署であり、軍の運営に口をはさむ権限はないはずで、金与正氏の行動は「越権行為」とみなされかねない。

ところが、その後に開かれた党の総会で、金与正氏は改めて「党第1副部長」に任命された。どうやら、北朝鮮の政務と人事を一手に掌握する最強の官僚機構、党組織指導部に移ったと見られているのだ。

さらにその後、組織指導部長の李萬建(リ・マンゴン)氏が解任される一方で、金与正氏は1年前に外された党政治局委員候補に復帰した。こうした一連の動きは、金正恩氏の「万が一」に備えた後継者人事のように映る。

こうした見方が当たっているとしても、金与正氏はまだ「ピンチヒッター」的な立ち位置と言えるかもしれない。だが、今はまだそうであっても、ずっとそのままではないだろう。いずれ、それも遠からず、金与正氏は北朝鮮のナンバー2、そして本物の後継者候補として、その実力と存在感をいっそう増してくるように思える。