北朝鮮には、公式な税金制度は存在しない。故金日成主席の提唱により、1974年4月1日をもって廃止したからだ。地方政府は、中央政府から配分される資金を予算に当てていたが、1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」を境にして、それが途絶えてしまった。
その穴を埋めるために、地方政府は様々な「税収策」を打ち出しており、その一つが市場の商人から徴収する市場管理費だ。それすら払えない人々は、市場の周辺の路上に品物を並べる露天商となる。取り締まりを受けると飛んで逃げることから「バッタ商人」などと呼ばれている。
(参考記事:北朝鮮、商売めぐり殺人事件に大乱闘も)これまでも時々行われていた露天商への取り締まりだが、平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋は、取り締まりが今までになく強化されていると伝えてきた。
当局は専門取り締まり班を組織し、大々的な取り締まりを行っている。その激しさを情報筋は「ヤクザの乱闘を彷彿とさせる」と表現している。
(参考記事:「凶器持ち大乱闘、死人も」過激化する北朝鮮の高校生たち)通常、このような取り締まりは光明節(故金正日総書記の誕生日)などの政治的に重要な日や「1号行事」(金正恩党委員長が参加する行事)を控え、地域の保安署(警察署)や労働糾察隊などが行う。ところが、そのような行事がないにもかかわらず、厳しい取り締まりが行われるのは極めて異例のことだと情報筋は伝えている。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面庶民の間で流れている取り締まり強化の理由は、金正恩氏が露天商を「無秩序だ」と批判したから、ということだが、実際に地方政府に登録せずに商行為を行う現象を徹底的に根絶せよとの方針が下されている。
しかし、このような見方も出ている。露天商が増えると税収が減るからというものだ。
国際社会の制裁は北朝鮮の経済に深刻な影響を与えている。市場からは商人の数が激減した。それは、地方政府の減収に繋がる。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面(参考記事:北朝鮮の市場に異変「商人の数が激減している」)
両江道(リャンガンド)の各郡では、市場管理費の引き下げを行い、工業製品の販売する商人は1日1000北朝鮮ウォン(約13円)、食料品やアイスクリームを販売する商人は1日500北朝鮮ウォン(約6.5円)の市場管理費を支払ってきたが、最近になって半額に引き下げられた。
(参考記事:制裁不況を「減税」で乗り切る北朝鮮の市場)一方、同じ両江道でも恵山(ヘサン)、平安北道(ピョンアンブクト)の新義州(シニジュ)などでは、市当局が今年4月ごろから、儲かっている業種を中心に市場管理費を2倍に引き上げた。また、平壌郊外の平城市当局は今年5月、露天商から通常の5〜7割値引きした市場管理費の徴収を始めた。それを納めていれば、商売を黙認するというものだった。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面ところが、今回の取り締まり強化で再び露天商が苦しい立場に追い込まれている。元々彼らは、市場、駅、バスターミナルの周辺で食料品、ミネラルウォーター、生活必需品を売って糊口をしのいでいる商人の中でも最も零細な商人だ。
「今年は凶作で、飼っていた豚も(アフリカ豚コレラで)すべて死んでしまい、暮らしがさらに苦しくなってしまった。道端で食料品を売って生計を立てていた人たちだが、商売ができなくなり不満が充満している」(情報筋)
(参考記事:北朝鮮「アフリカ豚コレラ検疫所」が風俗業に変身した理由)世論が悪化したことで、地元当局が取り締まりを幾分緩和する可能性も無きにしもあらずだが、もし金正恩氏からの指示が本当にあったとするならば、実際に緩和されるまでにはかなり時間がかかるだろう。