北朝鮮国営の朝鮮中央通信は6日、金正恩党委員長が東海岸で造成中のリゾート「元山葛麻(ウォンサンカルマ)海岸観光地区」の建設現場を視察したと伝えた。
金正恩氏は工事の進み具合に満足を表しながらも、次のように述べたという。
「今年の党創立記念日(10月10日)まで急いで何に追われているかのように速度戦で建設するのではなく、工事期間を6カ月間延長して来年の太陽節(4月15日の金日成主席の誕生日)まで完璧に完成しよう」
北朝鮮の建設事業では、工期の前倒しが政府上層部などから指示されることはあっても、延長が公式に認められるのはごく珍しいことだ。しかも、それが最高指導者の口から発表されるのは異例中の異例である。
同国ではこれまで、無茶な工期のゴリ押しにより、貴重な人命が大量に失われてきた。
(参考記事:【再現ルポ】北朝鮮、橋崩壊で「500人死亡」現場の地獄絵図)
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最近でも、金正恩氏が注力しているもうひとつのプロジェクトである三池淵(サムジヨン)郡の再開発については、完成目標が1年ほども前倒しされ、厳冬期にまで工事の続行が命じられた。
三池淵郡は、厳冬期には最低気温がマイナス30度以下にもなり、本来なら工事に適さない。しかし、工事のやり直しに工期の前倒しが重なり、冬場にも工事をせざるを得ない状況となったのだ。
こうした無理難題に応えるために用いられるのが、金正恩氏も口にした「速度戦」と呼ばれるキャンペーンだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面「速度戦」という言葉は1974年2月に登場した。金正恩氏の父・金正日総書記が、1976年までの経済6カ年計画を、党創立30周年(1975年10月10日)までに前倒しして終えようと呼びかけたのがきっかけだった。
要は何が何でも工期を守るための突貫工事なのだが、目標設定があまりに無茶なために「やっつけ仕事」にならざるを得ないのだ。もちろん、安全対策もおざなりで、大量死亡事故が繰り返し起きている。1984年には建設途中の橋梁が崩壊し、500人の死体が河原に散乱する地獄絵図が繰り広げられた。
北朝鮮国民にとっては、まさに「殺人キャンペーン」も同様なのである。
ではなぜ、金正恩氏は元山葛麻に限って「速度戦」を取り下げたのか。実は、同氏は最近、建設現場の視察などで「安全対策」という言葉を口にするようにはなっている。どうやら、国民に対する人権侵害への国際社会からの批判に敏感になっているようだが、それ自体は進歩と言えなくもない。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面だが実際のところ、今回の工期延長は経済制裁の影響によるもの、と見る向きが大勢のようだ。資材の調達も苦しいはずで、彼としても仕方のない決断だったのではないか。また、海岸リゾートを急いで完成させても、韓国などからの観光客を呼び込めなければ、外貨の大量獲得にはつながらない。
当面、米国との非核化対話が停滞するのもやむなしと、腹を決めているのかもしれない。