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北朝鮮の金正恩党委員長は1月1日の施政方針演説「新年の辞」で、次のように述べている。

党と大衆の渾然一体を破壊し、社会主義制度をむしばむ権柄と官僚主義、不正腐敗行為は大小をとわず一掃するための闘争の度合いを強めなければなりません。

それに先立つ昨年12月10日、北朝鮮の朝鮮労働党機関紙・労働新聞は1面に掲載した「イルクン(幹部)は人民のために滅私服務しよう」という社説で、勢道(特定の勢力による権力の乱用)、官僚主義と不正腐敗行為を根絶やしにする闘争を強く繰り広げなければならないと主張した。

ワイロさえ払えば大抵のことがまかり通るほどの「拝金主義社会」と化した現状に対する宣戦布告と言えるが、その取り締まりは、罪なき庶民の暮らしを脅かしている。

デイリーNKの情報筋によると、当局は工場、企業所の支配人に「8.3稼ぎに対する制裁を強化せよ」との指示を下し、それに伴い取り締まりと総和(総括)が繰り広げられている。「8.3稼ぎ」とは、職場の上司にワイロを掴ませて出勤扱いにしてもらい、商売に精を出すというものだ。

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平安北道(ピョンアンブクト)のある企業所で、8.3稼ぎをしようと新たに入社した人がいたが、党の細胞秘書が上部に信訴(一種の目安箱)を行い、結局企業所の支配人が更迭される処分を受けた。

慈江道(チャガンド)の企業所では、給料、配給の未配で暮らしていけなくなった一部の労働者が8.3稼ぎに乗り出したが、その上納金を支配人が着服したことが発覚し問題となった。

不正腐敗との闘いにおいて欠かせないのが庶民の支持だが、一連の取り締まりはむしろ反発を招いている。中国の習近平政権が庶民に支持されているのは、権限を悪用して巨万の富を築いた高官を次々に摘発する腐敗撲滅運動の効果によるものだ。金正恩氏も同様の政策で庶民の支持を集めたいのかもしれないが、8.3稼ぎで利益を得ているのは、工場、企業所の幹部だけではなく、一般の労働者も同じであることを看過しているのだろうか。

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「8.3稼ぎは、する側の問題ではなく、そのように追い込んだ当局の問題だ。工場が操業できず月給を受け取れなくなったため、市場で商売をして少しでも稼がなくては生きていけないのに、それすらできなくしたら誰どうやって食べて行けばよいのか」(情報筋)

反発を招いているのは、8.3稼ぎに対する取り締まりだけではない。金正恩氏は新年の辞でこのようにも述べている。

社会主義的生活様式と高尚な道徳的気風を確立するための旋風を巻き起こして、朝鮮人民の感情・情緒と美学観に反する不道徳で非文化的な風潮が現れないようにし、われわれの社会を徳と情によって睦まじい一つの大家庭にしなければなりません。

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これに基づくと思われる風紀取り締まりが、庶民の激しい反発を招いている。

米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋の話として伝えたところによると、当局は新年に入ってから清津(チョンジン)市内のいたるところに糾察隊(風紀取り締まりチーム)を配置し、取り締まりに当たらせている。その対象は、通行人の服装だ。これが、大きなトラブルへと発展した。

数日前、水南(スナム)区域と松坪(ソンピョン)区域の間にかかる橋の上で、ある女性が糾察隊に呼び止められた。「服が汚い」との理由だった。それを聞いた女性は「堆肥戦闘に行くのにきれいな服など着ていけるか」と強く反発した。

堆肥戦闘とは、不足する肥料を補うために人糞を集めて堆肥を作ることを指すが、現在、多くの市民がこの堆肥戦闘に動員されている。女性は動員先に向かう途中だったのだが、理不尽にも服装を咎められたことで怒りを爆発させたのだ。

(参考記事:金正恩氏が「人糞集め」を止めさせる日

糾察隊は、この女性を頭ごなしに抑えつけようとした。すると、女性同様に堆肥戦闘に向かう途中だった人々が騒ぎを聞きつけて集まり、「堆肥戦闘に行くときにきれいな服を着ろというのは、どの法律の何条何項に基づく取り締まりなのか」と強く抗議して大騒ぎになった。

また別の情報筋によると、肖像徽章(金日成主席、金正日総書記のバッジ)を見えるところに付けていないことも糾察隊の取り締まり対象になる。肖像徽章は、元旦の銅像への献花など政治的な行事の際に限って外に見えるところに付け、普段はインナーシャツに付けるのが一般的だが、それを「肖像徽章未着用」だと取り締まるのだ。そのたびにジッパーを降ろして「ほら、ここにあるだろ」と見せつけるという。

冬と夏とは異なり、学生糾察隊や労働者糾察隊の姿は見かけないが、そのかわりに女盟糾察隊が嫌がらせのように取り締まり、住民の反発は高まっている。