北朝鮮当局は今月初め、国内外の音楽や映像作品70余りを「不純宣伝物」に指定し、視聴や上映、配布を禁止する措置を取ったとデイリーNKの内部情報筋が伝えた。
北朝鮮「ガールズグループ」に異変(2)
禁止された曲のなかには「正日峰の雷鳴」が含まれている。この曲はかつて存在した旺載山(ワンジェサン)軽音楽団を代表するメンバーで、金正日総書記の寵愛を受けたことで知られる女性歌手・廉青(リョム・チョン)が歌ったものだ。正日峰とは、金正日総書記が生まれたとされる白頭密営(パルチザン基地)の付近にそびえたつ峰だ。つまりは金一族を神格化する代表的な曲のひとつなのだ。
北朝鮮当局は2016年に、「旺載山軽音楽団舞踊CD」の発売禁止の措置を取ったと米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じている。詳細な理由は不明だが、金正恩氏に関わるスキャンダル動画が出回ることを防ぐためだったとされている。それと同じく「正日峰の雷鳴」が禁止曲に指定されたとすればよほどのことがあったと見られる。
(参考記事:金正恩氏が登場する「わいせつ動画」の怪情報)この曲以外では、モランボン楽団が演奏した「母の声」も禁止対象に含まれていると情報筋は伝えた。モランボン楽団は2012年、金正恩党委員長の指示によって創設され記念日の度に公演を行ってきた金正恩時代を象徴する楽団だ。しかし今年2月以後、ピタッと公演が止んでいる。
一方、モランボン楽団に代わって北朝鮮を代表する楽団として注目されているのが「三池淵(サムジヨン)管弦楽団」だ。北朝鮮が今年2月の韓国・平昌(ピョンチャン)冬季五輪に合わせ、特別編成して派遣した楽団である。韓国での公演ではセンターを務めたグラマラスな肉体を誇る美人シンガーが、悩殺的かつ激しいダンスを披露した。
(参考記事:【画像】グラマラスで目立つキム・ジュヒャン氏)人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面
韓国派遣のために特別に編成された三池淵管弦楽団の評判が思った以上によかったせいか、いまやモランボン楽団に取って代わる存在になりつつあるのかもしれない。今月には、朝鮮労働党の創立73周年を記念して平壌で「三池淵管弦楽団劇場」がオープンした。新たに誕生した楽団の名を冠する劇場が、これほど早く建てられるのは極めて異例である。
三池淵管弦楽団は、南北融和のシンボルとして今後北朝鮮を代表する楽団になっていくのかもしれない。これだけで、モランボン楽団の時代が終わったと見るのはいささか早計かもしれないが、モランボン楽団だけが特別扱いされた時代は終わったものと思われる。
(参考記事:金正恩氏が寵愛「ガールズグループ」も一寸先は闇 )複数の曲が禁止された背景には、楽団や歌手をめぐる政治的背景、またはスキャンダルが隠されているのかもしれない。それに加えて、これまでは問題のなかった歌詞など歌の内容になんらかの問題が生じた可能性もある。(つづく)
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。