北朝鮮で女性1200人が「人身売買」被害か

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司法機関と関係の深い両江道の情報筋によると、恵山(ヘサン)市では昨年1年間で、46世帯の188人が、家族丸ごと姿をくらました。その多くが脱北し、韓国に向かったものと思われる。

望まないセックスワーク

一方、家族を残してひとりで姿を消した人は141人に達しており、その多くが人身売買の被害者と思われる。人身売買は、恵山市よりも周辺の農村で猛威をふるっている。

昨年1年の間に道内で行方不明になった人は1711人に達する。そのうち1200人が女性で、大半が人身売買の被害者だと言われている。人口が70万人の両江道で、1200人は非常に大きい。

中朝国境地帯での人身売買の横行は、以前から指摘されてきたことだ。

米国務省が6月30日に発表した人身売買に関する年次報告書は、中国に脱出した北朝鮮国民のうち、1万人に達する女性が強制結婚、望まないセックスワーク、家事労働などで苦しめられていると指摘している。

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付言するなら、これは成人女性に限った話ではなく、幼い少女たちも人身売買組織などに狙われている。

北朝鮮当局も、人身売買を重大犯罪とみなし、取り締まりを進めている。

性暴力の温床

別の情報筋によると、今年4月に保衛部(秘密警察)は、恵山市郊外のシンボク共同農場で働いていた46歳のチェ容疑者を人身売買容疑で逮捕した。7月中旬には家族も逮捕され、全員が収容所送りになったと伝えられている。

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チェ容疑者は、様々な女性に「人手が足りていない中国の農家で働いてみないか。数ヶ月で3000元(約4万5000円)になる」と声をかけ、今年4月までの2年間に、300人以上の女性を、中国吉林省の長白朝鮮族自治県の十八道溝村に住む朝鮮族の李某を通じて、各地に売り飛ばしていた。

恵山市と国境の川を挟んで向かい合う長白朝鮮族自治県では、人手不足が深刻で、農家では北朝鮮労働者を呼び寄せ、春の種まきから秋の収穫まで手伝わせることが一般的になっている。チェ容疑者は、これを悪用したものと思われる。

人身売買が横行する理由について情報筋は、密輸業者の存在を挙げている。彼らは北朝鮮国内の品物を中国に密輸することで儲けを得ていたが、売り物が枯渇したため、女性を密輸するようになったというのだ。こうした人身売買の被害者の多くは既婚女性で、恵山周辺の農家では父親と子供だけがいる家が半分に達しているとも言われる。

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密輸業者たちは「元手がかからないいい商売」「むしろ彼女らの家族を助けてやっている」と罪の意識を全く感じていないという。体制から人権を尊重されたことのない北朝鮮の人々は、人権の概念すら知らないと言われ、そのことが人身売買の拡大につながっている側面もあるようだ。

(参考記事:脱北女性、北朝鮮軍隊内の性的暴力を暴露「人権侵害と気づかない」

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記