金正恩ブランドは「メイドインジャパン」に敗北

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北朝鮮の金正恩党委員長は、今年5月、36年ぶりに行われた朝鮮労働党第7回大会で、参加者全員に45インチの液晶テレビ、冷蔵庫、洗濯機などの家電製品、衣類、化粧品などの様々なプレゼントを贈るという大盤振る舞いをした。

若き指導者、金正恩氏への忠誠心を育むための人心掌握の一種だが、この「金正恩ブランド」の評判が芳しくないという。

ZARAや整形に「覚せい剤ダイエット」まで

まず、北朝鮮の特権階層である幹部、トンジュ(金主)と呼ばれる新興富裕層が欲しがるのは、「メイド・イン・ジャパン」の液晶テレビ。中国を通じて輸入される日本のソニーは一番人気で富の象徴であり、それに次ぐのが、韓国LG、そしてサムソンだ。「金正恩ブランド」のテレビは、粗悪品でなくても、中国製の微妙な品質の製品で評判が良くないという。

ちなみに、目の肥えた高級幹部やトンジュの家庭の子どもたちの贅沢ぶりは、日本に住む我々の想像以上で、整形を厭わずZARAなどのファストファッションを好む。マダムたちは美容のための牛乳風呂、はては覚せい剤ダイエットにまで手を出すぐらいだ。

こうした理由から、幹部たちは「金正恩ブランド」の贈り物を市場で転売しようとする。高級幹部たちが、テレビに限らず、当局からもらった記念品や配給品などを市場に横流しするケースは多い。現金に換えたうえで、本当に必要なものを購入するための資金に充てたりするためだ。

テレビ転売で「この世の地獄」へ…

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しかし、「金正恩ブランド」のテレビには、「朝鮮労働党第7回大会」とかかれ、朝鮮労働党の旗がついているため処分できないというのだ。衣類、化粧品、お菓子セットなどとちがって、「足がつく」からだ。

下手に転売したことが発覚すると「最高指導者の贈り物を粗末に扱った」という理由で、革命化処分(地方の閑職への追放)や、最悪の場合、「この世の地獄」と称される拘禁施設に送られる可能性すらある。

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実際、2005年には、平壌の空軍司令部の幹部が、金正日氏から贈られたテレビを、知人に売り払い、そのカネで日本製を買ったことが明らかになり、更迭され、地方に追放されるという事件が起きた。

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一方、家族や親戚にプレゼントすることは問題にされない。そこで、厄介払いを兼ねて、結婚する子どもにプレゼントする幹部もいる。何か言われても「金正恩氏への忠誠心を受け継ぐという意味を込めて贈った」などと言い訳ができる。

かつて、金日成氏から受け取った贈り物は「家宝」として大事にされた。しかし、カリスマもなく、忠誠心も得られていない金正恩氏からの贈り物は、単なる品物に過ぎない。プレミアが付かないため、市場では、他の製品と同じ値段で売られている。忠誠心の厚い人や、田舎の幹部なら喜ぶかもしれないが、質の高い外国製品を愛用している都会の幹部には「金正恩ブランド」はありがた迷惑に過ぎない。

だからといって「金正恩ブランド」に価値がないというわけではない。「朝鮮労働党第7回大会」や朝鮮労働党旗が書かれた液晶テレビは、間違いなく世界の北朝鮮マニアにとって垂涎の的だ。いっそのこと「金正恩ブランド」のテレビを海外のオークションサイトに出品したらどうだろうか。高値で落札され、思わぬ外貨稼ぎになること間違いなしだ。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

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