北朝鮮、地獄の「田植え戦闘」に学生から不満噴出

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北朝鮮で「田植え戦闘」の季節がやってきた。田植え戦闘とは、北朝鮮国民が、農業生産量を高めるために農作業に総動員される毎年恒例の行事だが、住民にとっては非常に厄介な行事の一つだ。

この時期、北朝鮮当局が住民を田植え戦闘に動員するため、一部では市場の営業時間を短縮、もしくは完全閉鎖されるケースもあり、「農村動員期間は地獄のようだ」と露骨に不満を見せる商人もいる。ちなみに、女性たちは「田植え戦闘」などで鍛えられるせいか、「二の腕が恥ずかしく見せられない」と嘆く韓国在住の脱北女性もいる。

(参考記事:脱北女性の最大の悩みは「二の腕」…ムキムキ過ぎて

北朝鮮当局は、5月15日からの1ヶ月間を「農村支援戦闘期間」に定め、全国の高等中学校(高校)と大学を休校とし、学生を農村支援に向かわせている。

90年代に大学に通った平壌市民のパクさんによると、かつては学生たちも、農村支援を「辛いけど、イベントや出会いもあってそれなりに楽しい」ものと考えていた。しかし、北朝鮮の新人類と言えるチャンマダン(市場)世代と呼ばれる若者たちの考えは違うようだ。

北朝鮮屈指の穀倉地帯である黄海北道の大学生は、山間部の谷山(コクサン)郡と延山(ヨンサン)郡などの協同農場に支援に向かっているが、彼らの口から「ついに農民になっちゃったね」「また『田植え戦闘』かよ。本当の戦場よりしんどいんじゃないの?」「毎日、戦闘ばかりで、勉強はいつしろっていうのか」など不平不満が噴出している。

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学生たちの不平不満も当然だろう。相次ぐ農村支援、勤労動員で勉強や研究の時間が大幅に削られているからだ。金正恩党委員長は「大学は国の未来を担う民族幹部の養成基地」とし、設備や教育の質の向上、実習などで技術人材の育成について強調しているが、現実は正反対の状況となっているわけだ。

こうしたなか、北朝鮮の新興富裕層である「トンジュ(金主)」や金銭的に余裕がある家庭の学生は、教授に100ドル(約1万1000円)のワイロを渡して、農村支援を免除してもらう。

北朝鮮当局は、田植え戦闘などの動員を通じて国家への忠誠心を植え付けようとしている。しかし、スマホを欲しがり、「韓流スターに会うために、韓国に行ってみた~い」と思う北朝鮮のチャンマダン世代にとって、農村支援は、古い世代の因習を叩き込まれる苦痛に満ちた儀式でしかない。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記