女性と児童への「性暴力」が深刻…北朝鮮「人権侵害」の実態

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この1年、デイリーNKや米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が伝えた北朝鮮内部の情報を振り返ると、ふたつのキーワードが目に付く。ひとつは「トンジュ(金主)」で、もうひとつは「女性」だ。

トンジュは、北朝鮮の市場経済化の中で台頭した新興富裕層のことだが、こちらについては次の機会に詳しく述べたい。

一方、北朝鮮の女性に関するニュースは、悲惨で怒りを誘うものもあれば、彼女たちのたくましさを感じさせるものもあった。だが、「たくましさ」が浮き彫りになるのは、北朝鮮の女性たちが不条理の中に置かれていることの裏返しでもある。

国連決議にも反映されている「北朝鮮における人権に関する国連調査委員会(COI)」の最終報告書(以下、国連報告書)は、北朝鮮における女性の人権状況について次のように述べている。

女性に対する差別は、社会のすべての側面で横行している。実際のところ、悪化しているかのようである。なぜなら、男性が支配的な国家において,経済的に進出しつつある女性及び疎外されている女性の両方を食い物にしているからである。(中略) 女性差別は他のいくつもの人権侵害とも関係しており、女性は脆弱な立場に置かれている。食料の権利及び移動の自由に対する権利が侵害されているため、女性や少女は人身売買の被害を受けやすく、また、性的取引及び売春への従事が増加している。(後略)

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北朝鮮社会においては、儒教的で男性本位な社会の雰囲気のせいで、女性に対する性暴力は問題視されてこなかった。職場内で性的暴行の事実が明らかになった場合は、むしろ被害者である女性が侮辱されたり不利益を受けたりするので、女性は沈黙するしかないというのだ。また、成人女性でさえそうなのだから、被害児童の境遇は想像を絶する。

(参考記事:北朝鮮で児童への性犯罪が深刻…「表面化していないだけ」

しかし近年では、北朝鮮の女性らもやられているばかりではない。市場ビジネスの主な担い手は女性たちだし、家系も女性らが支えている。妻に見放された男性らは「離婚」を突きつけられる恐怖に怯えている。

北朝鮮の市場経済化の中で、旧来の身分差別を形骸化し、大衆の発言力が増す傾向が見えてきている。女性が市場ビジネスの担い手であることを考えるなら、女性の地位向上と北朝鮮の社会変革は密接な関係を持っていると言えよう。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

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