北朝鮮医師、驚愕の離れ業で「医薬品」を製造

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医薬品が不足している北朝鮮で、医師たちが驚くべき方法で医薬品を製造していたことが明らかになった。穀物を原料にして、ある医薬品を製造するというのだ。

麻酔なしの切開手術

北朝鮮は、本来「無償医療制度」を誇ってきたが、90年代の深刻な経済難を背景に、事実上崩壊してしまった。さらに、軍が医薬品を独占したことから、一般庶民たちが医薬品を入手することは困難になった。

当時、筆者は中朝国境地帯で取材中、北朝鮮出身のコチェビ(ストリートチルドレン)たちが、病気の母を助けるため、国境の川を渡り、物乞いしている姿をよく見かけた。このコチェビが、無事お金を貯めて、北朝鮮に帰るとなった時、心優しい中国の朝鮮族は、抗生物質や市販の風邪薬などを「使ってもいいし、余ったら市場で売りな」と言いながら餞別として渡していた。

当時の、医療環境の劣化を表すエピソードとして、ある脱北者は、麻酔薬なしの切開手術を行った「恐怖体験」について証言している。

(参考記事:【体験談】仮病の腹痛を麻酔なしで切開手術…北朝鮮の医療施設

医学生がヤミの中絶手術

国家がまともな医療行政を放棄してしまったことから、ベテランで優秀な医者たちは、自宅で民間診療所を開き、経済的に余裕のある特権階級幹部やトンジュ(金主)を顧客に医療活動を続けはじめた。

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なかには、二重まぶたなどの「ヤミ整形手術」や、産婦人科医が個人宅に出向いて行われる「ヤミの中絶手術」まで登場。さらに、医大生たちが、夏休みや冬休みに入ると、大学の課題そっちのけで中絶手術のバイトに勤しんでいるという内部情報もある。

小麦粉を原料に

こうした医療崩壊という現実のなかで、現場の医師たちは献身的に診療に携わっていた。1993年に水因性の伝染病が流行したが、治療薬が不足していたため、国連から支援物資として入ってきた抗生物質の錠剤を溶かして注射薬を作り、動脈注射を行っていた。

さらに、抗生物質「オキシテトラサイクリン」(テラマイシン)に関しては、信じられない方法ーーなんと、小麦粉を原料に製造していたというのだ。

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その方法は、かまどの火にかけて、48時間もの間、火加減を調節しつつ煎じるという重労働だ。ちなみにこの薬、日本ではニキビの治療薬として薬局で売られているありふれたものだ。

ヤミ手術などのモラル崩壊があっても、やはり医者は医者だった。大飢饉という厳しい環境のなかで、北朝鮮の医師たちは、少しでも多くの人民大衆の命を救うために、あらゆる知恵を絞って、献身的に医療活動をしていたのだ。

金正恩党委員長は、たびたび平壌に建設された立派な病院を現地指導しているが、こうした医師たちの崇高な努力をどれほどわかっているのだろうか。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記