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北朝鮮では昨年12月の最高人民会議常任委員会第14期第12回総会で採択された「反動的思想・文化排撃法」に基づき、取り締まりを進めるために、反社会主義・非社会主義連合指揮部なるものが平壌から国境沿いの地域に派遣されている。

指揮部は今年初めから活動を開始。主な取り締まり対象は脱北、密輸、そしてチャイナ・テレコムなどの中国キャリアの携帯電話の使用のみならず、韓流ドラマや映画の視聴・流通などの反動思想文化、麻薬の栽培、流通、売春、さらには品行不良まで含まれる。

本来、これら行為の取り締まりは地元駐屯の国境警備隊や地元政府が行うが、いつまで経っても効果が上がらず、それどころかむしろ違反者と結託、増長する有様。それに業を煮やした中央政府が、「直轄統治」と言わんばかりに、地元とのしがらみのない連合指揮部を派遣したのだ。

一時期は活動が低調になっていたが、6月ごろから本格的な取り締まりを再開。実はこれ、苦しい暮らしを強いられている人々からの密告が相次いだためだ。つまり「ねたみ」に基づく密告というわけだ。しかし、取り締まりが強化されると地元にカネが落ちなくなり、苦しくなるのは密告する側も同じはずなのだが。

(参考記事:北朝鮮で海外事情伝える違法な「情報誌」拡散…当局緊張、大々的に調査

両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋によると、取り締まりの強化で逮捕される人が相次ぎ、両江道安全局(県警本部)や保衛局(秘密警察)の留置場は人で溢れかえっているという。

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連合指揮部に加え、保衛局は別途、携帯電話ユーザーの掃討作戦を行っているとのことだ。街頭に検問所を作り、金属探知機を使って荷物検査をするほどの徹底ぶりだ。

(参考記事:北朝鮮国民の生活を縛る「反動的思想・文化排撃法」のヤバさ

ワイロで釈放されるケースも増えているが、我先に釈放を勝ち取りたい人がワイロ相場を吊り上げてしまい、以前は2万元(約34万円)だったのが、10万元(約170万円)という一般庶民からすると天文学的な額にまで高騰している。さらに、他地域より裕福な平安北道では、そこに2万元が上乗せされるという。

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別の情報筋が伝えた男性は、国境を挟んで向かい合う中国吉林省長白朝鮮族自治県に住む取り引き業者に自宅から携帯電話をかけたところ、保衛部に逮捕されてしまった。通常なら場所を移動しつつ、電波探知機に引っかからないようにするところを、8月15日の光復節(日本の植民地支配から解放された日)の祝日で、取り締まりが緩んでいると思い込んでいたのだ。

取り調べで保衛局は、男性が韓国と連絡をしたに違いないと最初から決めてかかり、家族は「このままでは管理所(政治犯収容所)送りにされかねない」とため息をついているとのことだが、こういうやり方はワイロを引き出すためのものだろう。また、連合指揮部が駐屯していることもあり、保衛局が「地元のプライド」をかけて、実績作りに必死になっている側面もあるだろう。

ただし、大枚をはたいて釈放してもらえるのは保衛局に逮捕されたケースに限る。国が主導する取り締まりを執行する連行指揮部には複数の機関の要員がいて相互監視が働き、ワイロが通じず、逮捕されれば処罰は免れないそうだ。

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殺伐とした状況が続き、住民の間からは、一日も早く連合指揮部が撤収してくれることを望む声がある。一方で、「どうせそのうち撤退して、非社会主義行為もまた復活するだろう」と当局のやり方をあざ笑う声も上がっている。

連合指揮部は10月10日の朝鮮労働党創立日までに、調査、処理、対策など取り締まり状況をまとめた報告書を提出せよとの指示を中央から受けており、メンバーの8割を入れ替えた上で、来年の10月10日までさらに活動期間を1年延長する計画だとのことだ。また、国家保衛省は無期限で取り締まりを続け、毎月報告書と自主検討書を提出する。

これについて情報筋はは「連合指揮部の取り締まりは5カ年計画期間中継続するというが、同じ人が(取り締まりを)続ければ、ワイロを受け取って見逃すようになるため、中央は1年ごとに人員を大々的に入れ替える方針」だと説明した。

密輸を中心に経済が回っていた両江道で、何の代案も提示しないまま取り締まりを続けるとなると、経済が壊滅的なダメージを受け、人々の不満が高まることになる。

コロナ対策として行われていた封鎖令(ロックダウン)で人々の不満が高まり、なし崩し的に終了してしまったように、一連の取り締まりも中断、もしくは有耶無耶になる可能性も考えられる。

(参考記事:「このままでは全住民が死ぬ」北朝鮮都市 ”コロナ対策” が崩壊