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北朝鮮では、村や町に必ず1ヶ所以上の診療所があり、基本的な診察、治療が受けられ、大きな手術を受ける場合には、市や郡の中心地にある人民病院に赴く。診察、検査、医薬品いずれも無料だ。北朝鮮の誇る、先進的な「無償医療制度」だ。

ところが、ある妊婦が急な陣痛に襲われ、村の診療所に向かったのだが、そこはもぬけの殻だった。一体どういうことなのか。咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋が、その顛末を語った。

中国との国境を流れる豆満江のほとりにある穏城(オンソン)郡の江岸里(カンアンリ)。この村に住む女性は出産を控えていた。今月初め、陣痛に襲われた彼女は夫に脇を抱えられ、村の診療所に担ぎ込まれた。しかし、いるはずの医師の姿はどこにも見えず、夫は妻をベッドに寝かせたまま、村のあちこちを駆けずり回り医師を探した。

ようやく医師を見つけたものの、産婦人科は専門外だった。産婦人科医師を探している間に、出産が始まった。実はお腹の中の胎児は双子だったのだが、出産前の検診では検査機器がなかったのか、わからなかったのだ。

女性はひとりきりで一人目の赤ん坊を出産した。そして、もうひとりの赤ん坊がお腹の中にいることに気づき、出産に入った。

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そのとき、夫は牛車に乗って遠く離れた別の村の診療所に向かったが、そこにも医者の姿がなかった。その間に、妻は出血多量で亡くなってしまった。双子の安否について、情報筋の言及はない。

理不尽な妻の死に怒り狂った夫は、道党(朝鮮労働党咸鏡北道委員会)に「伝染病(新型コロナウイルス)事態で忙しい時期に、医師たちが本分を果たさずに病院を留守するのはどういうことだ」と信訴を提起した。

通常、信訴を行うには、途中で妨害されたりもみ消されたり、或いは加害者から逆襲されたりしないように、強力なコネを使うなどの「事前工作」が必要なものだが、夫がそれを行うだけの地位にあったのか、平壌医学大学での信訴もみ消し事件が影響したのか、訴えが取り上げられた。

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(参考記事:北朝鮮社会が震撼「医大の性奴隷」事件で死屍累々

道党は今回の案件について、調査、追及を行ってはいるものの、何ら回答していない。

「病院の医師たちも、他の住民同様に、配給も生活費もなく苦しい思いをしている中で、誰かに責任を負わせる類のものではないとし、これといった対策を出していない」(情報筋)

(参考記事:「感染より餓死が怖い」北朝鮮国民、コロナ対策で生命の危機

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話を耳にした住民は、夫に同情しつつ、妊婦を死に追いやったとして当局を非難している。