人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

人を生かすためのロックダウンが、またもや人を死に追いやってしまった。

北朝鮮は昨年来、北部の両江道(リャンガンド)、慈江道(チャガンド)、咸鏡北道(ハムギョンブクト)など中国との国境に面した地域に対して、新型コロナウイルス対策の封鎖令(ロックダウン)を相次いで出している。

脱北やその後の密入国、密輸などその理由は様々だが、北朝鮮最大の貿易都市、平安北道(ピョンアンブクト)の新義州(シニジュ)郊外にある朔州(サクチュ)に対しても、先月23日から1ヶ月間の封鎖令が敷かれ、最低限のエッセンシャルワーカーを除き、一切の外出が禁じられた。

(参考記事:ロックダウン相次ぐ北朝鮮国境地域、今度は新義州郊外も

ところが、現地のデイリーNK内部情報筋によると、14日午前0時をもって外出が許されるようになった。ただし、郡の境を越えての移動は依然として禁止されている。1ヶ月の予定が20日に短縮されたことについて情報筋は、封鎖令が引き起こした悲劇的な事件が理由だと説明した。

その事件とは、次のようなものだ。

人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

潜水艦バッテリー工場(29号工場)の技術課の現場技師のユンさんは、封鎖中にも業務に支障のないように工場内の寮で寝泊まりせよとの指示を工場から受けた。自宅には、身重の妻が一人残された。

防疫所のイルクン(幹部)と、地域担当の安全員(警察官)、人民班長(町内会長)が家々を巡回し消毒作業を行っていたところ、ユンさんの妻が自宅で血を流しながら苦しんでいるのを発見した。

妻は以前にも流産したことがあり、充分なケアが必要だったが、突如として下された封鎖令で病院にも、町内の診療所にも行けなかった。家には充分な食べ物がなくまともに栄養を取れていなかったところに突然、陣痛が襲ってきた。妻は、誰のケアも受けることもできず、数日間たった一人で激しい痛みと闘っていたのだった。

人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

本来なら病院への緊急搬送が必要なところだが、人民班長は「封鎖中だから病院に連れて行ってはいけない」として、慌てて町内の助産師を呼んだ。なんとか出産できたものの、生まれた赤ん坊は未熟児。すぐにインキュベーターに入れて手厚い看護が必要なところだが、封鎖令で病院に行けないままに息を引き取った。

赤ん坊が亡くなり、それを目の当たりにした妻が精神に異常をきたしているとの知らせを聞いたユンさんは、すぐさま帰宅しようと工場に外出許可を求めたが、工場は「構内を出てはならないというのが党の防疫方針」だとして許可を出さなかった。

亡くなった赤ん坊は安全部(警察署)が埋葬したが、その場所を教えてほしいとユンさんの要求に「党の防疫方針を貫徹する道で、些細な犠牲はありうる」として、回答を拒否した。

人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

それから数日後。ユンさんは工場の敷地内で遺体で発見された。心神とも疲れ果てた状態で仕事に取り組み、足を踏み外して落下したというのが工場側の説明だが、同僚たちは、あまりもの苦痛と悲しみで自ら命を絶ったことは明らかだと言っているとのことだ。

工場も安全部も、防疫方針に違反したことを咎められ処罰されることを恐れ、非人道的な対応を取り、その責任逃れに汲々としているわけだが、このような現象は北朝鮮国内で広範に起きているものだ。

(参考記事:北朝鮮の水害復旧現場で4人が事故死…ショベルローダーに轢かれ

事件の話は住民の間にあっという間に広がり、強い怒りを呼び起こした。

「赤ん坊を死なせておいて、何が防疫だ」
「防疫は、食べ物を配給してこそできるのではないか」(住民の声)

あまりにもひどい事件が、今までの封鎖令で溜まりに溜まった不満が噴出するきっかけとなった。朔州郡当局は、怒れる世論をなだめるために、封鎖令を1段階下げて外出禁止を解いた。

赤ん坊を死に追いやった責任は、今回の事件の関係者の中で最も弱い立場にある人民班長と助産師になすりつけられた。人民班長は適切な措置を取らなかったとして解任され、助産師は逮捕された。

助産師は「赤ん坊を病院に連れていけなかったのは自分の責任ではない」「党の防疫方針のせいで、誰も責任を取ろうとしないから赤ん坊を死なせたのではないのか」などと強く反発した。

また、社会的に地位の高い労力革新者で人民参審員(裁判員)を務める助産師の夫も、当初は道党(朝鮮労働党朔州郡委員会)に信訴(告発)すると大騒ぎしたが、どうあがいても3年の教化刑(懲役刑)は避けられないことを知り、公民権と党員資格が剥奪されない労働鍛錬刑(短期の懲役刑)に減刑して欲しいと訴えている。

乱発される封鎖令に対して、住民が強く反発し、期間が短縮される事例が相次いでいる。両江道の恵山(ヘサン)では今年1月、3月に封鎖令が1ヶ月の予定で下されたが、それぞれ18日、1日で緩和された。1ヶ月自宅にこもって耐え忍ぶだけの食糧を確保できず、餓死する人が相次いだことから、住民のみならず地元当局までが封鎖に反対する事態となった。

(参考記事:ロックダウンわずか1日で解除…北朝鮮「コロナ対策」の朝令暮改