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北朝鮮は、世界でも稀に見る国内移動の自由のない国だ。市や郡の境界線上には哨所(チェックポイント)があり、役所で受け取った旅行証(国内用パスポート)がなければ通過が認められない。通行手形がなければ関所を通してもらえなかった日本の江戸時代のようなものだと考えると、理解が速いだろう。

しかし、あらゆる権限がカネに化けるのが今の北朝鮮である。ワイロを払えば旅行証発行、哨所の通過が認められ、定期的にワイロを払っているタクシーに乗れば境界線を問題なく通過できるようになるなど、形骸化が進みつつあった。それが貿易、物流の中心都市から各地の市場へ品物を運ぶシステムが、自然と形成される土壌ともなった。

2018年には、国内移動制限が撤廃されるとの噂が出回ったが、それも北朝鮮国民がいかに解除を望んでいるかの表れと言えよう。

(参考記事:北朝鮮で出回る「国内移動制限を来年撤廃」とのウワサ

ところが、その後に事態は一変した。新型コロナウイルス対策で国内の移動制限が強化され、再び他地域への移動が困難となった。封鎖令(ロックダウン)や、移動の時間帯制限が頻発され、物流が滞ったことで各地で物不足、価格高騰が深刻化し、国民の不満は爆発寸前だ。それに押されたのか、当局はコロナによる移動制限を一部撤廃した。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋によると、制限が撤廃されたのは先月20日のことだ。「わが国には伝染病(コロナ)患者はいない」との理由を挙げ、生活上の不便を考慮したためだとの説明だ。これにより、移動の時間帯制限が撤廃され、居住する市、郡の中での移動は自由にできるようになった。

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ところが、解除からわずか9日後の先月29日、当局は制限を復活させた。1年にもわたって抑えつけられていたエネルギーが一気に放出したかのように、問題が各地で噴出したからだ。

両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋によると、当局は先月29日午後5時から、恵山(ヘサン)市と三池淵(サムジヨン)市に対して、再びロックダウンの措置を取った。期間は30日間で、道内のすべての道路が封鎖され、車の利用が禁止された。工場、企業所の労働者の出勤は禁じられ、市場も閉鎖された。

きっかけとなったのは、先月27日に起きた密輸事件だ。恵山市民2人が、三池淵市で調味料、砂糖、大豆油を密輸した。ところが、翌日になって密輸の情報が当局に入った。もはやこれまでと思ったのか、密輸を幇助した国境警備隊の隊員が自首したことで、密輸に携わった2人と合わせて3人とも、両江道保衛局(秘密警察)に逮捕された。おりしも、国境を流れる鴨緑江の対岸、中国の吉林省ではコロナ感染者が急増しているころだった。

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吉林省衛生健康委員会の発表によると、密輸が行われた27日の時点で、コロナ感染で入院治療を受けている人の数は294人、無症状感染者は92人に達していた。恵山や三池淵の対岸にある長白朝鮮族自治県では感染者は発生していないが、北朝鮮にとっては、喉元にナイフが突きつけられているような状況に変わりない。

昨年8月、11月に続き3度目となるロックダウンに、市民は肩を落としている。「30日も行き来を塞がなければならないのか」と当局の過剰な措置に反発する人もいれば、「ついに本当に餓死しそうだ」と物資不足、物価高騰への不安をあらわにする人もいる。

(参考記事:飢えた北朝鮮の一家が「最後の晩餐」で究極の選択

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両江道でのロックダウンのとばっちりを受け、東隣の咸鏡北道でも移動制限が復活したということだが、それのみならず、食品の個人製造と市場での販売も厳しく禁じられた。特定の工場、企業所で衛生防疫規定を徹底的に遵守した上で製造した餅、豆腐、酒などの食品を、きちんと包装した上で市場に卸す措置が取られている。

外出禁止や物価高騰により、餓死する人が相次いだことを受けてのものと思われる。

(参考記事:ロックダウンと経済難に苦しむ北朝鮮庶民「国は市場を潰そうとした」

ただ、食品の製造で生計を立てている人や、豆腐や酒を作るときに出る大豆粕、酒粕で家畜を育てて生計を立てている人も多い。食品の個人製造と販売禁止は、市民の懐を直撃するのだ。現地で不満が渦巻いているのは言うまでもない。

「伝染病の患者がいないと言いながら、なぜここまで人民の生活を危機に追い込むのか」「庶民の事情を一つも知らず、(お上は)勝手に方針を下す」(住民)