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昨年12月4日の最高人民会議常任委員会第14期第12回総会では、「反動的思想・文化排撃法」が採択された。主に韓流と海外のラジオ放送にターゲットを絞って取り締まりを強化するためのものだ。

(参考記事:『愛の不時着』見たら公開処刑も…北朝鮮「韓流新法」の中身

デイリーNKは、この「韓流取締法」の説明資料を入手した。「無期懲役刑」「死刑」などの量刑が明示された資料は、存在そのものが人々を韓流から遠ざけさせる装置として働くものだ。

資料はまず、「反動思想文化排撃秩序を侵害した犯罪が伴う責任について規定する」とし、以下の4種類の違反行為についての刑事罰を列挙している。

◯南朝鮮(韓国)の文化コンテンツの視聴、流布
◯淫乱物(アダルトビデオ)の製作、流布
◯登録されていないテレビ、ラジオ、パソコンなどの電気機器の使用
◯閲覧が禁止された映画、録画編集物、図書の視聴、保管

法のかなりの部分が、映画、ドラマ、K-POPなど韓流コンテンツの流入阻止に割かれている。

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まず、27条で「南朝鮮の映画、録画物、編集物、図書、歌、図画、写真などを直接見たり聞いたり保管したりした者は5年以上15年以下の労働教化刑(懲役刑)を宣告され、コンテンツを流入させ流布した者は、無期労働教化刑(無期懲役刑)や死刑など最高刑に処する」と定めている。

また、32条は「南朝鮮式に話したり、文章を書いたり、南朝鮮の唱法で歌を歌ったり、南朝鮮の書体で印刷物を作成したりした者は、労働鍛錬刑(半年以下の懲役刑)または2年以下の労働教化刑に処する」と定めている。

これは、韓流の影響で韓国風の言葉遣いが広がっていることに対応するものだ。また、「南朝鮮の書体」に関する部分は、言葉遣いにとどまらず、文章の韓国化が広がっていることを示唆している。言語学的には同じ朝鮮語を使用する南北朝鮮だが、綴りや語彙に差があり、どちらの言葉かはすぐにわかるが、韓流の影響により韓国式の正書法を使った文章がオシャレなものとして受け止められていることは想像に難くない。

(参考記事:15年やっても効果ない「韓国語禁止令」を繰り返す北朝鮮

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北朝鮮当局は、新型コロナウイルス対策として一部地域に封鎖令(ロックダウン)を下し、地域感の移動を統制しているが、仕事や商売で外出する機会が減ったことで、韓流の「巣ごもり需要」が増加しているとの指摘がある。

日本でも人気の「愛の不時着」に加え、「コンビニのセッピョル」や、トロット(演歌)歌手のサバイバルオーディション番組の「明日はミスター・トロット」が、北朝鮮でも大人気になっている。韓流人気は若者、主婦にとどまらず、最も忠誠心が求められるはずの朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の兵士にまで及んでいる。

(参考記事:北朝鮮軍内で『愛の不時着』流行か…韓流取締を強化

一方、28条は「米国や日本など敵対国の文化や共和国(北朝鮮)に反対する内容が含まれた編集物を見たり、流入させたりした者は、10年以下の労働教化刑に処する、多くの量のコンテンツを流入させた場合には死刑に処す」と、米国や日本製のコンテンツについても規定している。情報筋の説明によると「反北朝鮮の編集物」には、北朝鮮当局が忌み嫌うキリスト教関連の書籍が含まれる。

(参考記事:「禁断の書」持っていた女性はなぜ、北朝鮮で処刑されたか

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また、アダルトビデオ(AV)などについては29条で定めている。「性録画物または迷信を説教した図書、写真、図画を見たり保管したりした者は、5年以上15年以下の教化刑に処す、これらを流入させ、流布した者には無期労働教化刑、罪状の重い場合には死刑に処す」としている。

AVに関しては、刑法183条(退廃的な文化搬入、流布罪)で最高で10年以下の労働教化刑という規定が従来から存在し、韓流よりもより厳しい刑罰が下されてきた。

(参考記事:出演女優を処刑…北朝鮮「裏AV流通」のゆがんだ実態

注目すべき点は、韓流などの外国のコンテンツ、AVなどの流入・流布・視聴が行われたことを知りながら通報しなかった者をも、処罰の対象としている点だ。違反者に労働鍛錬刑を科すことで、密告を奨励する意図があるものと思われる。

それ以外には、他国の携帯電話を保管していた者は3ヶ月以上の労働教化刑に処すとの規定もある。中国キャリアの携帯電話は、密輸、送金、脱北幇助などに欠かせないが、「国内情報の流出、海外情報の流入」の元凶と見て、厳しく取り締まる姿勢を示してきた。

「韓流撲滅」という当局の強い意志が反映された今回の法律だが、実際に効果を発揮するかは未知数だ。

北朝鮮当局は、施行当初は法を周知させ、国民に恐怖心を植え付ける抑止効果を狙って、厳しく取り締まり、見せしめとして違反者に処刑を含めた重罰を下すが、時が経つにつれ、法律が違反者からワイロを受け取るネタとして利用するようになるというのが、従来の流れだ。

また、現実にそぐわない法律は、ほとんど適用されなくなり有名無実化する事例も少なくない。

(参考記事:取締り強化でも安心、北朝鮮で流行る「違法携帯電話デリバリー」