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北朝鮮当局は一昨年、多数の除隊軍人(兵役を終えた兵士)を、中国との国境に面した咸鏡北道(ハムギョンブクト)穏城(オンソン)郡の倉坪(チャンピョン)労働者区にある4.25タバコ農場に送り込む「集団配置」を行った。

北朝鮮産のタバコは味がよく、お隣中国の愛煙家の間でも人気があることから、農場の労働力を強化して生産量を増やし、外貨を稼ごうという当局の目論みによるものだ。

(参考記事:北朝鮮が「安くて美味しいタバコ」で外貨獲得を目論んでいるのだが…

当局は、タバコ産業に相当に力を入れ、農場を優遇してきた。しかし、事態が急変した。新型コロナウイルスだ。ウイルスの国内流入防止策として国境を封鎖、防疫を停止してしまったことで、生産したタバコの葉が行き先を失ってしまったのだ。

現地のデイリーNK内部情報筋によると、農場の畑の一角に、袋詰めされ、ビニール膜をかぶせられた大量のタバコの葉が野ざらしにされている。農場には大規模な倉庫がないためだ。元々雨が少なく、収穫後に乾燥させたタバコの葉は、すぐに中国に輸出されていたので、大きな倉庫が必要なかったのだろう。

ところが、冬を迎えた農場にみぞれが振り始めた。湿気に当たったタバコの葉は、カビが生えて腐り始めた。農民は、袋から葉を取り出し、腐った部分をもぎ取った上で再加工するという涙ぐましい作業を繰り返しているが、量があまりにも多く、作業をしても数日でまた腐り始めるので、やってもやってもきりがない。

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農民は、葉が冬を越せずにすべて腐ってしまうのではないかと心配しているが、国境が開くのを待つしかない。氷点下10度の寒空での作業で、手や足が凍傷になる農民も増えている。

収入を失った農場管理委員会は、農民に食糧配給ができなくなってしまった。農場のイルクン(幹部)は、来年まで出荷ができない事態に備えて、対策会議を何度も開いている。また、来年に向けてタバコの苗の準備を始めなければならないが、農民に配給すらできない状態で、タバコ栽培を続けるべきのか、などが話し合われている。

今のような状態が来年まで続けば、すべての農民が餓死しかねないというのが、イルクンの共通した意見だ。だが先が見通せず、当局の方針もわからないため、議論したところで何の結論も出せずにいる。

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農場の未来をさらに暗くしているのは、最近成立した禁煙法だ。この農場で生産されるタバコの葉は内需用ではないが、金正恩党委員長のさじ加減一つで、今までのように優遇されなくなってしまう可能性もある。

(参考記事:違反したら命を奪う…金正恩式「禁煙法」の凄まじい本末転倒