「特殊部隊のいじめ殺人」発生で北朝鮮が厳戒態勢

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北朝鮮は、今年7月の開城(ケソン)を皮切りに、8月の両江道(リャンガンド)一部地域と慈江道(チャガンド)、さらに今月26日の午前6時から慈江道の満浦(マンポ)に対して封鎖令を出している。

いずれも、新型コロナウイルスの感染が疑われる人が出入りしたことによるものだ。咸鏡北道(ハムギョンブクト)の一部地域でも、27日から封鎖が実施されているが、こちらは少し事情が異なる。

(参考記事:北朝鮮国境都市、コロナ感染のおそれで2度目の封鎖令

北朝鮮の朝鮮労働党中央委員会、内閣、中央防疫委員会、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)は共同指示文を発し、咸鏡北道の会寧(フェリョン)、鐘城(チョンソン)、穏城(オンソン)など、中国との国境に面した地域に対して、27日午前7時からの封鎖令を命じた。

表向きの理由は新型コロナウイルスの流入防止だが、現地のデイリーNK内部情報筋が明らかにしたのは別の理由によるものだ。

「非正常な国境事故と伝染病遮断が封鎖令の目的と言われているが、実際は22日に行方不明になった兵士と銃弾を探さなければならないという、深刻な事件を解決するためだ」

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深刻な事件とはどのようなものだったのか。

今月22日、鐘城(チョンソン)の国境地帯で、朝鮮人民軍の特殊部隊の暴風軍団の兵士と副分隊長が巡回勤務にあたっていた。

この兵士は、副分隊長からいじめを受け続け、恨みを抱いていたようだ。事件当日にも、副分隊長は家で用事があると言って、この兵士に巡回警備を押し付けていなくなり、戻ってきては寒いと言って兵士の防寒服を奪い、仕事もせずに暖かいところで寝ていた。

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この副分隊長の嗜虐性は、他の部下にも向けられていた。自分の靴下、下着を洗濯させるなど部下をこき使い、何らかの問題で上官からの叱責を受けるたびに、憂さ晴らしで部下の兵士に暴言を吐いて暴力を振るった。それも他の兵士の目の前で行い、わざとはずかしめを与えるという鬼畜ぶりだった。

限界に達したのだろうか。兵士は副分隊長を自動小銃で射殺し、銃を捨てて弾薬の入ったカートリッジベルトだけを持って逃走した。

北朝鮮の軍では兵士に対する虐待が横行しているとされ、上官の暴力が脱北などの事件につながった事例は、決して少なくない。

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(参考記事:北朝鮮女性を苦しめる「マダラス」と呼ばれる性上納行為

暴風軍団は、兵士の捜索に乗り出したが、そう遠くには行っておらず、国境を越えて脱北してはいないはずであると見込み、24時間以内に逮捕できるとたかをくくっていた。ところが逮捕には至らず、27日になってようやく上部に報告された。

当局は、咸鏡北道地域の国境地帯の警備を強化し、黄海北道(ファンヘブクト)沙里院(サリウォン)市の実家に戻っている可能性があるとして、現地の保衛部(秘密警察)と安全部(警察署)に監視を強化するように命じた。

朝鮮人民軍総政治局は要員を現地に派遣して検閲(監査)を行っているが、兵士は特殊部隊所属だけあって、サバイバル術の訓練を受けている。山や中国に逃げ込めば、もはや逮捕は難しいと見ている。ちなみに鐘城の川向うは、中国吉林省延辺朝鮮族自治州の図們市で、奥深い山、人口密集地のどちらにでも逃げ込める地域だ。

朝鮮人民軍第11軍団としても知られる暴風軍団は、山岳戦、夜戦、後方撹乱などに長けた特殊部隊で、新型コロナウイルス流入遮断のための国境警備の目的で、3000人以上が派遣された。

本来、国境警備を担当するのは国境警備隊だが、常駐していることから生じた地元社会とのしがらみで、違法行為を発見しても大目に見るにとどまらず、むしろ違法行為に加担することすらある。そのため、地元に縁もゆかりもない暴風軍団が派遣されたわけだが、その振る舞いから地元住民や国境警備隊からの評判は決して良くない。また、軍の総政治局も、暴風軍団が国境地帯を無法地帯にしていると見ている。

(参考記事:北朝鮮の特殊部隊と国境警備隊が大乱闘、死傷者多数

今回の事件でとばっちりを受けたのは地域住民だ。ただでさえ、暴風軍団の横柄な振る舞いに眉をひそめていたが、封鎖令で他地域との行き来が完全に遮断された。

寒い冬を乗り切るためのビタミン源となるキムチの大量漬け込み「キムジャン」の季節を迎えているが、交通が遮断され、白菜、大根などを積んだトラックが立ち往生している。他から取り寄せることも可能だが、物資不足による物価高騰は必至だ。また、市場で売る他の商品も入荷せず、封鎖令解除の日程を明らかにされていない。住民は「冬をどう乗り越えればいいのか」と頭を抱えこんでいる。