金正恩「激怒映像」から浮かび上がる致命的な病弊

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北朝鮮の国営メディアは19日、金正恩党委員長が平壌総合病院の建設現場を視察し、現場の幹部らを厳しく叱責したことを報道。その様子を映像も交えて生々しく伝えた。

金正恩氏が、自身の怒りを外部にさらけ出すのはこれが初めてではない。同氏は2016年、スッポン工場を視察した際に管理不備に激怒し、支配人を銃殺。怒りを爆発させる様子をテレビ放映させ、自らの残忍さを見せつけた。

(参考記事:【動画】金正恩氏、スッポン工場で「処刑前」の現地指導

今回の建設現場の視察では、同プロジェクトの推進に当たるタスクフォース 「建設連合常務」の幹部たちを、「建設作戦を構想した意図とは背ちして設備、資材の保障活動で政策的にひどく脱線しており、各種の『支援活動』を奨励することで人民にむしろ負担をかけている」と叱責。「責任のある活動家を全てすげ替えて重大な問題として取り上げることについて指示した」という。

要するに、建設連合常務は病院建設の資金を準備できず、その負担を庶民に押し付けていたということだ。

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これに対し、「だったら金正恩氏が資金を手当てすれば良いではないか」と考える向きは少なくないと思われる。だが本人としては、とっくに「資金を解決してやれ」という指示を出しているはずなのだ。それなのにこうした問題が生じるのは、北朝鮮の大型建設プロジェクトに特有の事情がある。

金正恩氏は最高指導者となって以降、黎明(リョミョン)通りや未来科学者通りなどのタワマン団地建設を手掛けてきた。北朝鮮でマンションを建設する際には、当局がトンジュ(金主)と呼ばれる新興富裕層に投資を呼びかける。建設資金が不足しているからだ。資金を集めた上で建設を行い、完成した部屋の一部をトンジュに分譲。トンジュはその部屋を売り払って利益を得る仕組みだ。

ところが今回の病院建設では、こうした方法が使えない。それでも当局はトンジュに投資を呼びかけたかもしれないが、結果的に資金は集まらなかったのだ。

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万民の「平等」を標榜する社会主義システムが実質的に崩壊し、なし崩し的な市場経済化が進行してきた北朝鮮では、極端な拝金主義が急速に社会を蝕んでいるとされる。そうでもしなければ生き残れない歪でアンフェアな社会構造があり、それをもたらしているのは他ならぬ金正恩氏の独裁体制である。そして、そのような社会的状況の中で生まれたトンジュたちが、体制の呼びかけにそっぽを向いているわけだ。

今の北朝鮮に、金正恩氏をおおっぴらに批判できる勢力がいるとは思えないが、こうした静かなサボタージュのために最高指導者肝いりの事業までが混乱をきたす状況こそは、富の偏在という病弊が、体制にとっても脅威となりつつあることを物語っているのではないか。そして金正恩氏の激しい怒りも、そのことを知った上での苛立ちによるものなのかもしれない。