人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

北朝鮮から逃れ脱北した女性たち。そのほとんどが中国へと向かう。

自由や経済的な安定を求め脱北したものの、頼った脱北ブローカーが人身売買業者で、望まない男性との結婚、性産業への従事を強いられたりする事態が相次いでいる。中国当局は脱北者を「経済目的での不法入国者」とみなしているため、被害に遭ったとしても公安(警察)に通報すらできない。

(参考記事:脱北女性の「強制結婚・人身売買」で中国に態度変化の兆し

その中の一部が第3国を経て韓国にたどり着く。韓国入国後は、国家情報院の北韓離脱住民保護センター(旧政府合同尋問センター)で取り調べを受けた後、統一省のハナ院で3ヶ月間、韓国生活についての教育を受ける。その過程でも様々な問題が生じている。

(参考記事:韓国政府からニセモノ扱い…裁判を戦い抜いたある脱北者

脱北者たちは韓国社会に出るのに際し、当面の生活費となる支援金と公営の賃貸マンションが韓国政府から提供される。また、所轄の警察署の保安課所属の警察官が身辺保護担当官(身辺保護官)として保護を行うが、この身辺保護官が脱北女性への性暴力加害者となっているケースがある。その実態を、韓国の時事週刊誌「ハンギョレ21」が報じている。

身辺保護官は、脱北者を犯罪から守ると同時に、スパイである可能性を考慮し監視を行う。頻繁に顔を合わせるために親しくなり、個人的な悩みを打ち明ける関係に発展することも少なくない。脱北者は、北朝鮮での保衛部(秘密警察)との関係、つまり一方的に監視されるだけではなく、個人的な関係を築く対応の仕方に慣れているため、身辺保護官の存在にも否定的な考えを持つに至らないのだという。

人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

人権擁護機関の国家人権委員会が2018年に脱北者を対象に行なった調査では、全体の3分の2以上の脱北者が「(身辺保護管の)活動に満足している」「信頼している」と答えた。その一方で42%が「身辺保護官による人権侵害を経験した」とも答えている。最も多いのは「プライバシーの侵害」の38%だが、「担当が変わっても連絡し続けてくる」が10%、「精神的侵害」が7%、「身体的侵害」が4%だった。

ハナ院の諮問委員であるチョン・スミ弁護士によると、2015年からの6年間で身辺保護官から性暴力を受けた女性は9人、被害事例を目撃した事例は3人だ。内訳は強制わいせつ6件、セクシュアル・ハラスメント3件、暴行、脅迫3件、姦淫2件、強姦1件で、1人が複数の被害に遭っている事例もある。ただし、これは氷山の一角に過ぎず、被害の全容は把握できていない。

弁護士の紹介した事例は次のようなものだ。

人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

脱北女性Kさんは、定着支援金1000万ウォン(約89万7000円)を騙し取られた。身辺保護官に相談したところ、「慰めてやろう」と言って酒の席に連れていかれ、性暴力を振るわれた。自殺未遂を起こすなど精神的に追い込まれたKさんは、チョン弁護士に相談したが、訴訟準備中に連絡が途絶えた。

別の脱北女性Nさんは、身辺保護官と恋愛関係となり、妊娠したが、その後で相手が既婚者であることを知った。2人の関係をバラせば「一緒に死ぬことになる」と脅迫された。チョン弁護士が相談を受けたが、結局連絡が途絶えてしまった。

チョン弁護士によると、身辺保護官は脱北女性の安全のためとして、個人情報、友人関係、SNSへの投稿まで把握している。そのため裁判となり実刑判決が下されても、出所後に報復されるかもしれないと恐怖心を懐き、訴訟を断念してしまうのだという。

人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

韓国女性家族省が2017年に発行した研究書「北韓離脱女性暴力被害実態および支援方案研究」によると、調査対象となった脱北女性のうち25.2%が性暴力の被害を受けた経験を持つ。しかし、それへの対応は「逃げる」が15%、「何もしない」が13%、「やめてほしいと頼む」が11%、「抵抗したり誰かに助けを求めたりする」は10%に過ぎず、「警察に通報する」と答えた人はほぼ皆無だった。

北朝鮮では、上官や上司が部下の女性に、「朝鮮労働党に入党させてやる」などと持ちかけ、性上納を強いる事例が後を絶たないと言われているが、被害者は性暴力や女性の人権に関する教育を受けていないため、自分の経験が性暴力被害であると韓国に来てようやく気づく場合もあるという。また、性暴力の被害者の落ち度が強調される社会的雰囲気が、被害者を口ごもらせてしまい、韓国に行っても同じように考えてしまうようだ。

(参考記事:北朝鮮女性を苦しめる「マダラス」と呼ばれる性上納行為

その中で、ハン・ソウン(仮名)さんは加害者を告訴するに至った数少ない事例のひとつだ。

ハンさんは、韓国軍の情報司令部の兵士に1年以上に渡り、グルーミング・セクシャル・アビューズ(性的目的で接触して信頼関係を気付いた後に性暴力を振るう行為)の被害に遭い、2回の妊娠中絶を強いられた。相手が既婚者であることがわかり「関係を口外しない」との書類にサインさせられ500万ウォンを渡されたが、加害者がカネを返せと言い出し、ようやく自分が利用されたことに気付いた。ハンさんは、軍検察に加害者を業務上威力による姦淫で告訴した。

しかし、軍検察は告訴から半年以上経っても何の処置も下さないばかりか、被害者ハンさんを呼びつけて性暴力の被害に遭ったときの録音を聞かせて確認を取ろうとするなど、二次被害に対する配慮すらなく、求めていた性暴力被害者保護措置も却下。ハンさんは法的な救済を得られないまま、PTSDに苦しめられ続けている。

2019年の時点で韓国に住む脱北者のうち女性は75%。一方で、身辺保護官のうち女性は18%に過ぎない。また、統一省ハナセンターの脱北者支援にあたる人員は180人で民間人だ。一方で警察官である身辺保護官は900人もいる。警察庁警察改革委員を勤めるNGOの人権連帯のオ・チャンイク事務局長は「警察は身辺保護官の制度を、公安警察の規模を維持する名分として利用している」と批判した。

(参考記事:北朝鮮女性が語る性暴力被害、#MeToo とは言えなくて…