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北朝鮮では、住宅の建築許可から、運転免許の発行、市場の売台(ワゴン)の割り当てに至るまでありとあらゆる権限がカネに化ける。本来は国が国民に無料、または廉価で提供するものであっても、担当者や組織が「手数料」を要求するのだ。

勤め先の国の機関や国営企業から受け取る給料が非現実的なレベルで低いため、このような形でカネを稼がなければ生きていけないからだ。また、機関や企業も国から予算がもらえないため、このような形で独自に予算を調達しなければならないという事情もある。

当たり前のように行われていることではあるが、当然のことながら違法行為であり、運が悪ければ摘発の憂き目に遭う。今回摘発されたのは、南浦(ナムポ)市千里馬(チョルリマ)区域の送配電部の50代のオ支配人だ。現地のデイリーNK内部情報筋が、その経緯を伝えている。

オ氏が支配人を勤めるこの送配電部の管轄区域には、北朝鮮有数の製鋼所である降仙(カンソン)製鋼所(正式名称は千里馬製鋼連合企業所)がある。大量の不良品を生み出し続けているのに未だに続けられている大増産運動のうち、1950年代に繰り広げられた「千里馬運動」の発祥の地としても知られる。

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この製鋼所は、生産に必要な電気を国から特別に配給されている。その一方で市内の一般家庭に電気はまともに供給されず、市民は頻繁な停電に悩まされている。

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北朝鮮は気候的に雨が少ないのに、水力発電への依存度が極度に高く、送配電設備も老朽化しているため、数十年にわたり深刻な電力難が続いている。経済的に余裕のある人々を中心に、ソーラーパネルを自宅に設置して電力を「自力更生」するのが一般的になっているが、それだけで24時間、すべての需要を問題なく賄えるわけではない。照明や小型テレビなら支障なく使えるが、洗濯機や電子レンジ、エアコンなど電力消費量の多いものは使えない。

(参考記事:北朝鮮で普及進むソーラーパネル…改善しない電力事情が背景

そこで富裕層は、送配電部の関係者にワイロを渡し、本来は工場などの国営企業に供給する電気を回してもらい、電気をふんだんに使う。

デイリーNKの2018年のインタビューに、首都・平壌郊外の平城(ピョンソン)の市民は、「1時間あたり5万北朝鮮ウォン(約650円)を払いさえすれば、希望する時間に電気を供給してもらえる」と述べている。

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(参考記事:【北朝鮮国民インタビュー】「国が電気を供給してくれていた時代に未練はない」

ご多分に漏れず、オ支配人も10年間にわたり、降仙製鋼所に供給すべき電気を毎日30分減らし、ワイロを受け取って幹部やトンジュ(金主、新興富裕層)の家に供給していた。

このような「売電」は公然の秘密だったが、特に問題視されることはなかった。こうした行為はごく当たり前のことであり、客が客だけあって、不正行為を知っても何も言えず、告発したところで得にならないばかりか、報復されかねないからだ。

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ところが、今回は本来の供給先である製鋼所の現場から、決められた量の電気が供給されておらず、生産に支障をきたしているとの問題が関係当局に提起された。

おりしも不正行為の摘発キャンペーンが行われている最中に出た、金日成主席とゆかりのある製鋼所からの告発。これを受けて当局は検閲(監査)を実施し、その結果、不正行為が発覚してオ支配人が逮捕されたというわけだ。

オ支配人は解任、撤職(更迭)され、国家主要生産に害をもたらし、また国家重工業発展に支障を来した容疑で取り調べを受けている。また家宅捜索では、自宅から大量の米ドル紙幣が発見された。

情報筋は、支配人は最高で無期懲役刑に処されるだろうと町で噂されていると伝えた。この場合、財産もすべて没収されるだろう。同時に支配人は運が悪かったとの話も出ている。

「国の電気を横流しして金儲けしようとするのは、どこの送配電部も同じで、こんな現象は全国どこでも起きているが、今回はオ支配人がひっかかってしまった」(情報筋)

ちなみにオ支配人は昨年、金正恩党委員長が進めている両江道(リャンガンド)三池淵(サムジヨン)の再開発工事に対して献金を行い、金正恩氏から感謝状を受け取るなど、市民からは「政府の信任を受けた人」として知られていた。社会的名誉や地位も国からカネで買い取れるわけだが、今回はそれも通用しなかった模様だ。

(参考記事:財政難の北朝鮮、国民の「タンス預金」吸い上げを画策

通常は、立場の弱い人だけが処罰を受けることが多いが、今回は「客」も処罰を受けるものと見られている。