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北朝鮮当局は先日、17年ぶりとなる公債の発行に踏み切った。国際社会の制裁やコロナ不況で深刻化する一方の外貨不足を打開するために、国内の企業や個人が蓄えた外貨を吸収するのが目的のひとつだ。

そして、公債発行と同時に出されたのは、国内における外貨使用禁止令だ。市場での商品の売買や、工場、企業所、機関の間での決済における外貨使用を禁止し、北朝鮮ウォンを使えというものだが、「過去の悪夢」を思い出した北朝鮮国民は強く反発していると、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

(参考記事:ハコモノ建て過ぎで財政難の北朝鮮、17年ぶりの国債発行へ

平安南道(ピョンアンナムド)の情報筋によると、5月から全国の商店と市場でのドルの取り引きを禁止し、内貨(北朝鮮ウォン)を使用せよとの指示が4月末に下された。

すると早速、市民は「北朝鮮ウォンだけですべての取り引きをどうやってやるんだ」と呆れた反応を示しているという。

「今は市場で服1着買うのにもドルを出さなければ買えない世の中だというのに、外貨を使うなと言われても誰が従うものか」(情報筋)

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国営銀行に外貨を持っていけば、市場レートで北朝鮮ウォンに両替すると宣伝されているが、それに対する市民の反応は「大豆で麹玉を作ると言っても信じられない」というものだ。全く信用ができないということのたとえだ。

北朝鮮で北朝鮮ウォンと銀行が信用を失ったのは、2009年11月30日午前11時に突如として行われた「貨幣改革」がきっかけだ。

通貨単位を100分の1に切り下げるというデノミネーションだが、1世帯あたり旧券10万北朝鮮ウォンまでは銀行に預ければ新券に交換するが、それ以上は没収というものだった。1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」のころからなし崩し的に広がった市場経済を嫌っていた金正日総書記が、地下経済を潰して国主導の計画経済に戻そうと目論んで断行したと言われている。

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このときには財産のほとんどを奪われる人が続出し、国中が大混乱に陥った。一部では暴動が起きる事態となった。政府は怒れる民心をなだめるために交換限度額を増やしたり、責任者を銃殺するなどの措置を取ったが、貨幣改革による混乱は長年に渡り北朝鮮に悪影響を及ぼし続けた。

デノミで財産を失った北朝鮮の人々は、「銀行に金を預けるなら大同江に投げ捨てた方がマシ」と言うほど銀行に対して不信感を持つようになり、北朝鮮ウォンは完全に信用を失い、外貨で物を売り買いすることが一般化してしまった。

(参考記事:貨幣改革に反発した北朝鮮商人、暴動を起こす

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情報筋もこのときの混乱を思い起こしている。

「当局は2009年の貨幣改革のときにも、外貨使用を禁止するとの布告を出して住民が保有していた外貨を強制的に奪った。今回も同じ手法を使っている。住民は(当局に)もう騙されないと反発していて、今回の措置もうやむやになるだろう」

北朝鮮政府は、1990年代の大飢饉「苦難の行軍」以降、数年おきに外貨使用禁止令を出しているが、現実に合わないために毎回うやむやになっている。

(参考記事:北朝鮮、広がる外貨使用…「将軍様のお金はいや!」

平安北道(ピョンアンブクト)の行政機関のある幹部も、外貨使用禁止令が下されたことを認め、「以前から市場で外貨を支払って原材料を調達していた国営工場の立場からすると、北朝鮮ウォンだけで取引しろというのは、工場の稼働をやめろというのと同じで、現実に合わない方針」だと批判した。

また、「当局は外貨難に直面するたびに、権力を使って外貨の使用を禁じ、国民の手中にある外貨を回収しようとしたが、毎回、国民と幹部層の反発と非協力で壁にぶつかる」として、実効性のない禁止令は政府の権威を貶める結果を生んでいると述べた。

案の定、市場では外貨使用禁止令は無視され、米ドルと中国人民元が以前同様に使われているという。