化学兵器で家族を金縛りに…金正恩「権威」裏切る凶悪事件

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北朝鮮を蝕む病弊は枚挙に暇がないが、代表的なものをふたつ挙げるとするならば、ワイロなしでは何一つ動かせない拝金主義と、横流しだ。そしてこのふたつは、根の深いところでつながっている。

かつての北朝鮮では、食料品、生活必需品から住宅に至るまで、生活に必要なほとんどのものを国からの配給で無料、または非常に安価に手に入れることができた。そのおかげで、国民は豊かではなくとも、安定した暮らしを営めた。支給される給料は小遣い銭程度のもの。それを支えていたのは、旧共産圏諸国からの援助だ。

ところが、1989年にベルリンの壁が崩壊したことを皮切りに、東欧諸国の共産主義生産が次々に崩壊、1991年には共産主義の盟主だったソ連までも消え去った。北朝鮮では、国からの配給が止まってしまったが、、給料は上げられなかったため、北朝鮮の人々はあらゆる立場や権限を利用して現金収入を得ようとした。それがワイロと横流しだ。

例えば、北朝鮮随一の肥料工場である興南肥料工場では、ただでさえ不足している肥料が、労働者による横流しで次から次へと消えていく。同様の現象は、全国的に起きている。

(参考記事:生真面目な北朝鮮労働者を転落の道へと追い込んだ経済難

配給システム崩壊の影響は、犯罪の多発にも繋がっている。平壌のデイリーNK内部情報筋は、金正恩党委員長が建設を進めている平壌総合病院の現場周辺で、窃盗事件が頻発している現状を伝えた。

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最近、平壌市内の大同江(テドンガン)区域の紋興洞(ムヌンドン)のマンションでは、近隣の平壌総合病院の建設現場で働く軍の近衛英雄軍団と第8建設局の兵士による窃盗・強盗事件が次から次へと起こっている。彼らの手口は次のようなものだ。

まず、普段から住民の行動をよく観察する。そして、一人暮らしの家や留守の多い家に狙いをつける。午前1時を過ぎてから、地上からマンションの上の階にロープを渡して部屋に侵入し、電気炊飯器、メディアプレーヤーなどの家電製品を盗み出す。留守だと思って盗みに入ったら実は6人家族がいて、大立ち回りを繰り広げた事例もあったそうだ。

住民の間からは「浸透訓練(で身につけた技)を泥棒に使うのか」との声が上がっているが、中にはこんな事例すらあったという。

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「彼らは家に押し入り、特殊ガスを撒く。そうすると、意識はしっかりしているのに体が動かなくなる。そうやって、目の前ですべてを盗られた被害者もいる」(情報筋)

窃盗を行うにあたって、人を金縛り状態にする化学兵器を使う者がいるという恐るべき証言だ。

兵士たちを窃盗に追いやるのは物資の不足だ。全国各地から現場で働く労働者への支援物資が届き、地域住民も食事を提供しているが、全然行き届いていないのだ。

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(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為

「平壌総合病院の建設は現在当局が最優先としている国家対象建設で、そのために住民には建設現場に提供する食糧の調達の課題(ノルマ)を下した状況だが、実際には末端の兵士までに配給が行き届いていない」(情報筋)

配給が届かないのは、現場の幹部が横領したり横流ししたりしているからだ。腹をすかせた上級兵士は、下級兵士に「食べ物を調達してこい」を命じる。それで窃盗事件が多発するわけだ。

配給が足りず腹をすかせた兵士が民間人を襲う事例は今に始まったことではない。国境地帯では、中国に忍び込んで盗みを働く者すらいる。

(参考記事:北朝鮮からの越境犯罪に激怒か…中国側から「悪口」放送

当局は平壌総合病院を「人民に与える愛の贈り物」などと宣伝しているが、地域住民は食糧の供出を強いられた上に、強盗の被害に遭うなど、散々なことになっている。「こんなことだったら病院なんて要らない」との声も上がるが、金正恩氏の指示に背けば政治犯扱いされ、収容所送りになりかねない。結局、自宅の窓に鉄格子をはめるなどの自衛策を取らざるを得ず、出費は増えるばかりだという。

平壌総合病院をめぐっては、手抜き工事により建物に構造上の問題が生じる可能性を指摘する声が上がっている。その原因は、質を無視したやっつけ工事を行う「速度戦」だが、資材が盗まれて必要なものが減らされる、という状況も想像に難くない。

(参考記事:最新病院の建物崩壊も…金正恩「コロナ対策」の危なさ