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米農務省は、先月13日に発表したコメに関する報告書で、今年の北朝鮮のコメ収穫量が昨年の157万3000トンから21万3000トン(約13%)減少した136万トンになる見込みだとしている。また、国連人道問題調整事務所(OCHA)も先月4日に発表した報告書で、全人口の約4割にあたる1010万人に対して緊急の食糧支援が必要な状況だと明らかにしている。

このように北朝鮮の食糧事情が逼迫する中、当局は軍に配給する軍糧米の徴収を急いでいるが、強引なやり方で農業関係者とのトラブルが続発している。その一部始終を、平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

舞台となったのは、北朝鮮が誇る大穀倉地帯「十二三千里平野」にある平安南道(ピョンアンナムド)の文徳(ムンドク)だ。郡党(朝鮮労働党文徳郡委員会)は、各協同農場の管理委員長と里(村)の党委員長を集めて会議を開いた。

その場で、郡党の幹部は「計画量どおりのコメを上納せよ」との書類を出し、管理委員長らに署名を求めた。この「計画量」とは、内閣の国家計画委員会が、工業生産と同じように農業生産にも割り当てたもので、前年の収穫量を元にして決めるのだが、虚偽報告が横行している上に、天変地異などを一切考慮しておらず、そもそも現実に合っていない。

例年なら管理委員長らは、おとなしく書類に署名し、計画量どおりのコメを出しただろうが、今年は様子が違った。「今年の作況を考えると、計画量の100%は不可能で、半分でも困難だ」と、激しく反発したのだ。

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同じ十二三千里平野にある平原(ピョンウォン)郡の各協同農場では、今年の収穫が例年の半分に満たない状況だった。

(参考記事:北朝鮮で食糧危機の懸念強まる…穀倉地帯の収穫量が半減

汗水たらして頑張って得た収穫だが、計画量どおりの軍糧米を出せば手元に残るものはほとんどない。農民の多くは、高利貸しから秋の収穫後に利子を付けて返す条件で穀物を借りる。それで農機具や種を得て農業をするのだが、収穫物をほとんど奪われるような状況では返済に行き詰まってしまう。そうなれば、残された道は都会に出て働くか、夜逃げするくらいしか道がない。農場からは人が減り、翌年の農業生産にも影響する。

(参考記事:借金取りに追われる北朝鮮の農民「返せない」と開き直る

それでも軍糧米を確保しなければならない郡党は、強硬策に乗り出した。会議場の扉を封鎖し「7割以上を納めるとの書類に署名しなければ家に帰さない」と管理委員長らを監禁したのだ。それでも譲れないと頑張る管理委員長らと郡党とのにらみ合いが続き、監禁状態は50時間にも及んだ。彼らは、暖房も切られ、水や食べ物が一切運び込まれない状態で監禁された。

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軍糧米を確保しようとする軍と、なかなか渡うとしない農場との間では以前からトラブルが頻発していたが、今年はより深刻なようで、今年10月には道内の平城(ピョンソン)市の慈山(チャサン)協同農場で、軍糧米の徴収にやってきた糧食参謀と、農場の幹部との間で大げんかとなり、兵士は空砲を撃った上で、実弾の装填された銃を農民に向ける騒ぎに発展した。

(参考記事:兵士と農民が大乱闘…北朝鮮「食べ物の恨み」で社会に亀裂

北朝鮮の農業不振は今に始まったことではない。農民のやる気を削ぐ農業集団化、土地を荒廃化させ災害をもたらす段々畑化、現実を無視した農業計画、国際社会の制裁による農機具、資材、肥料、インフラの不足など複数の問題が絡み合い、解決しようにも一筋縄ではいかない。

(参考記事:金正恩体制に暗雲…食べ物がない「絶糧世帯」が急増中