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旧ソ連では1930年代、大飢饉が発生し、特にウクライナでは数百万人とも言われる餓死者が出た。この「ホロドモール」と呼ばれる大飢饉を引き起こした一因は、農業の急激な集団化だった。収穫のうち、国に納める量が多すぎて食べるものがなくなり、だからといって集団農場の作物に手を出せば厳しく処罰される有様だった。

それから20年あまり経った1954年11月。朝鮮労働党中央委員会全体会議で金日成首相(当時)は、「ソ連の経験のとおり、農業協同化運動は法則に合っていて、社会発展の客観的な要求を反映した必然的な運動」などと述べ、農業集団化の必要性を説いた。それからわずか4年で農業集団化が完成したが、農業の現実よりイデオロギーを優先した北朝鮮版ルイセンコ主義とも言えるチュチェ(主体)農業と共に、1990年代後半に大飢饉「苦難の行軍」の原因となった。

農業の専門家でもない金日成氏が、デタラメな指示を乱発するような状況で、農業生産が上がることは期待できなかっただろう。

(参考記事:金日成氏のデタラメな指示に歯向かった農場支配人の悲惨な運命

2012年になって、金正恩氏の「新たな経営管理体制を確立することについて」という談話を発表したことをきっかけに、圃田担当制の導入が始まった。農業生産性を高めるために、家族単位で一定の面積の土地を任せ、耕作させるというものだ。定められた収穫物を納めれば、後は各自が自由に処分できるというもので、金正恩政権の代表的な農業改革の措置と言われる。

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しかし、非常にうまく行っているところがある一方で、期待通りの効果が得られていないところもあるのが現実だ。

両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋は、恵山(ヘサン)、普天(ポチョン)、雲興(ウヌン)の協同農場に試験的に導入された「個人圃田担当制」が確実に協同農業よりうまく行っていると伝えた。

昨年、平安北道(ピョンアンブクト)での導入が始まったという個人圃田担当制。従来の圃田担当制との違いは不明だが、個人に300坪から500坪の土地を貸し与え、農業に関する一切の権限を与えるというものだ。また、種、肥料、農薬は、秋の収穫後に10倍の量の穀物で返すとの条件で、農場管理委員会から貸してもらえる。

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不作になったときに返済が行き詰まらないかと心配になるが、それでも充分にやっていけて、今年の収穫量は増えるとの評価が出ている。また、収穫した小麦やジャガイモの質もよく、農民がやる気を持って丁寧な仕事をしたことが垣間見えるとの評価だ。

「農民は、不足する農薬や肥料を自主的に購入した。人手が足りないときには手伝いに行くなど助け合った。うまく行ったところでは生産量が昨年の2倍近くになった」(情報筋)

(参考記事:金正恩氏の農業改革、一部で成果を上げるも順調とは言えず

一方、咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋は、道内の各郡で2ヶ所の協同農場を選んで圃田担当制を実施することになっているが、実際に行われているところは少ない。

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「導入初年度には家族単位の『分組担当制』を実施し、とても良い雰囲気となり、前例のないほど豊作となった。ところが、苦労して農作業をしたのに分配がまともに行われなかったことで、また収穫量が下がってしまった」(情報筋)

農業をしたところで生活はよくならないと絶望した農民たちは、農場を離れて商売をするようになったという。働き手が足りなくなった一部の農場は、出ていった農民を強制的に連れ戻している。

(参考記事:出稼ぎに出た農民を「強制連行」する北朝鮮の協同農場

圃田担当制が試験的に導入された地域では「個人の取り分を保障することは、農民に確実なモチベーションとなっている」と評価する声も上がっているが、国に納める量が増やされたことで手元に何も残らないので、農民の意欲を削ぐ結果となっている。

納める量が増えることについて情報筋の説明はないが、おそらくこういうことだろう。

内閣の国家計画委員会は、前年の収穫量を元に翌年の計画収穫量、つまりノルマを決定する。しかし、そのノルマは農場幹部が前年に行った虚偽報告の、水増しされた数字を元に設定されているのである。水増しせずに正直に報告すれば、計画未達成で幹部は処罰されてしまう。

天変地異で収穫量が減ったとしても、国は元々の計画収穫量の3割を強制的に買い上げる。価格は1キロ240北朝鮮ウォン(約3円)と、市場価格の20分の1以下というタダ同然の値段だ。収穫量の残りから諸経費分、翌年の生産用の種を除いた部分は農民に分け与えられるが、その量は期待していたほどにならない。かくして、いくら一所懸命働いても、1年分の食糧にもならないのだ。

情報筋は、「国が嘘さえつかず約束どおりにしてくれていれば、収穫量は決して悪くなかったろうに」「約束どおりにしてくれるのならば、熱心に農業に取り組みたい」という農民の声を伝えた。つまり、農民は圃田担当制に前向きだが、まともに実施されていないことが、農民の労働意欲をそいでいるということだ。