北朝鮮軍「モラル崩壊」でドロボー軍隊化が止まらない

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全世界で最も長いと言われている北朝鮮の兵役。その期間は10年にも及ぶ。それだけあって、兵士の数も桁外れに多い。米国務省の報告書によると、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の2006年から2016年までの年平均の兵員数は116万人で、総人口(2500万人)に占める兵士の割合も4.8%と世界で最も高い。

そして毎年、数多くの兵士が兵役を終えて民間に戻っていくが、北朝鮮当局はこれと言った手当を支給していない。それが、民間人に大きな被害をもたらす結果を生んでいることを、咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

その場所は、北朝鮮北東部にある咸鏡北道の清津(チョンジン)。郊外には、数多くの副業地が存在する。副業地とは、不足する国からの食糧配給を補うために、軍部隊が独自に開墾した畑だ。ところが、その周辺にある協同農場で働く農民が切り開いた畑が荒らされ、作物が盗まれる事件が相次いでいる。

協同農場では、任された土地を責任を持って管理し、収穫の一部を国に納め、残りを自分のものにできるという「圃田担当制」が施行されているが、これがうまく働かず暮らしていけない。そのため、個人用の畑を作って作物を市場で売ることで現金収入を得ている。

(参考記事:北朝鮮の協同農場、農民に土地を有料で貸し与える

そんな畑に、副業地で働く兵士たち、とりわけ除隊を控えた兵士たちが、農作業の合間を縫って、あるいは夜中に忍び込み、トウモロコシやトウガラシを大量に盗んでいくのだ。それも、牛車に積んで行くほど大量にだ。

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「除隊を控えた兵士たちは何も恐れず、畑をすべてひっくり返してトウモロコシを盗んでいく」(情報筋)

彼らは、盗んだ作物を市場で売り払って現金化し、除隊後の生活資金としてためておく。中には、高く売れるからと、盗んだトウモロコシを茹でてから売りに出す者もいるほどだ。

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作物を盗まれ貴重な現金収入源を失った農民たちだが、兵士の盗みを目撃しても何も言えず、黙っているしかない。

北朝鮮では、兵士の犯した犯罪は保安署(警察署)ではなく、警務隊(憲兵隊)が処理する。兵士に作物を盗まれたからと保安署に通報しても、権限がないために何もできない。だからといって、警務隊に押しかけていっても門前払いされるだけだ。

兵士らは、個人の畑だけをターゲットにし、協同農場は狙わない。かつては、協同農場も同様の大量窃盗の被害に悩まされていた。しかし、今では上級機関に信訴(不正行為の告発)することで対処している。下手をすれば処罰されかねない。もちろん、個人でも信訴することは可能だが、コネや権力がなければ訴えを取り上げてもらうのは容易ではない。そういうこともあって、個人の畑を狙うほうがより安全なのだ。

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軍当局は、兵士の窃盗を防ぐために、副業地の近隣では軍服を来て行動すること、銃器の携帯や勝手な行動はしないこと、などの指針を下してはいるが、現場の兵士たちが気に欠ける様子は一向にない。それどころか、窃盗に罪悪感など全く持たず、「除隊の準備はうまく行っているか」「どこそこに行けば儲けがあるぞ」などといった会話を交わす有様だという。

窃盗は犯罪だが、兵士たちにも他人様のものに手を出さざるを得ないそれなりの事情がある。

朝鮮人民軍は、兵士の除隊に際していくばくかの食糧を渡すだけで、退職金の類は一切支給しない。その貴重なコメを両親に食べさせようと空腹をガマンし、乗っていた列車の立ち往生で到着が遅れ、餓死した兵士もいるほどだから、その量は推して知るべしだ。

(参考記事:北朝鮮「列車に乗っていたら飢え死に」その理由は

国境警備隊に配属になれば、脱北や密輸をする人から受け取るワイロを溜め込んで、除隊後の生活資金にできる。また、大都会の近くに駐屯する部隊に配属されたら、市場で何らかの商売ができる。ところが、兵士のほとんどが送り込まれる部隊は山奥にあり、現金収入のチャンスはないに等しい。

農民の畑で盗みを働き、生活資金を工面しておかなければ、豊かな生活はおろか、生きていくことすら難しいのだ。

(参考記事:30代男性にガソリンをかぶらせた北朝鮮の「貧困と絶望」