30代男性にガソリンをかぶらせた北朝鮮の「貧困と絶望」

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北朝鮮は世界的に見て自殺率が非常に高い国だ。

世界保健機関(WHO)の2012年の統計によると、10万人あたりの自殺率(年齢調整なし)のランキングでは、北朝鮮は39.5人で1位。国ごとの人口と年齢構成の違いを調整した値でも、北朝鮮は1位のガイアナ(44.2人)に次ぐ2位(38.5人)だ。

世界でも稀に見る抑圧体制が、多くの人を自殺に追い込む一因となっている。

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中国との国境を流れる鴨緑江に面した北朝鮮の村で、30代男性が自宅に火を付け焼身自殺を図る事件が起きた。

事件が起きたのは先月2日。現地のデイリーNK内部情報筋によると、両江道(リャンガンド)金正淑(キムジョンスク)郡の上台里(サンデリ)の家から突如として火の手が上がった。この家に住んでいた30代男性が体にガソリンをふりかけて火を付け焼身自殺を図ったのだ。

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男性は死亡したが、その妻と息子は、近隣に住んでいた実の父親に助け出され、一命はとりとめた。貧困に苦しめられた末の焼身自殺だった。

平安道(ピョンアンド)出身の男性は、兵役でこの地の国境警備隊に勤務していた。除隊後に、地元の労農赤衛隊(民兵組織)の隊長の娘と結婚し、故郷に戻っていった。

国境警備隊は、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の中でもかなり「オイシい」部隊に属する。脱北や密輸の手助けの見返りにワイロを受け取り、除隊後の商売の種銭にできるからだ。

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しかし、北朝鮮当局は脱北や密輸に対して厳しい取り締まりを行うようになり、以前のような実入りは期待できなくなってしまった。

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それが影響しているのかどうかは不明だが、一家3人は平安道で生活苦に喘いだ末、金正淑郡に戻ってきた。しかし、この地も彼らにとって安住の地とはならなかった。

かつてなら、国境の川を越え中国で出稼ぎすれば相当の儲けになったが、国境警備が強化された今では困難になった。国境警備隊や労農赤衛隊のコネももはや通用しないようだ。

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男性は結局、地元の協同農場に配属され、しがない農場員として暮らすこととなった。食糧が配給されるとは言え、暮らし向きは楽にならず、1日3食を食べるのがやっとの暮らしをしていた。その配給が去年から半分に減らされてしまった。また、理由は不明だが、妻との仲も悪化した。男性は周囲の人々に「苦しい」とこぼしていたという。

北朝鮮では、自殺は「金日成・正日・正恩3代の指導者と労働党に対する背信行為」と見なされる。そして遺族は、理由を問わず、敵対階層に分類される。しかし、保安署(警察署)は男性が「精神疾患病を抱えていた」ことにして事件を処理し、問題にはならなかったという。

労農赤衛隊長の父が、保安署長とのコネで事件をもみ消させたのか、地元から「反革命分子」を出すと、保安署、保衛部(秘密警察)関係者が責任を取らされることをおそれたのか、理由は定かでない。

国際社会の制裁にさらされながらも、首都・平壌に住む人々や、地方在住の幹部やトンジュ(金主、新興富裕層)はかなりの裕福な暮らしをしている。一方で、北朝鮮の人口の大多数を占める、地方在住の一般庶民は、ただでさえ苦しかった暮らしが制裁の影響でさらに苦しくなっている。

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男性が命を断ったのは、2回目の米朝首脳会談が物別れに終わった翌々日のことだった。制裁の一部解除に期待が寄せられていたが、たとえ会談結果が良いものだったとしても、絶望のどん底にいた男性の命を救えただろうか。

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